商品開発の課題と解決策
アメリカでは今、代替肉の人気が急速に拡大しています。代替肉は、動物性の肉の代わりに大豆などの植物性タンパク質を原料とするものが多く、最近では本物の肉と同じような味と食感を実現した商品が販売されるようになってきました。今回はアメリカにおける代替肉市場について、現地の最新情報を交えながら紹介します。(調査日:2020年3月)
代替食品の普及を推奨するNPO組織グッド・フード・インスティテュート(The Good Food Institute)によると、アメリカにおける2019年の代替肉の売上は、9億3,900万米ドル(995億3,400万円、1ドル106円換算)で、前年比18%増、前々年比38%増となりました。2019年の売上のうち、66%が冷凍代替肉、33%が冷蔵、1%が常温保存可能商品となっています。また、商品形状ごとの売上トップ3をみると、代替肉ハンバーガー(ハンバーガー用パテ含む)が2億8,300万米ドル(299億9,800万円)、ソーセージ類が1億5,900万米ドル(168億5,400万円)、続いてパテ(チキンパテおよび朝食用パテ)が1億2,000万米ドル(127億2,000万円)でした。同市場では特に、冷蔵の代替肉ハンバーガーの伸びが著しく、前年比123%増、前々年比555%増となっています。(※1)
代替肉は、ベジタリアンやビーガンの消費者だけでなく、一般的な食生活を送る消費者のあいだでも普及しているようです。市場調査会社エヌ・ピー・ディ(NPD)の調査によると、アメリカの消費者の16%が「定期的」に植物性代替食品(代替肉やアーモンドミルク等)を消費しています。そして、そのうちの89%の消費者はベジタリアンやビーガンではないと回答しています。つまり、一般的な消費者が食事の選択肢の一つとして代替食品を選んでいるのです。(※2)代替肉が拡大する背景には、健康志向や、環境問題、世界の人口増加による食糧問題、動物愛護の意識の高まりが挙げられます。
アメリカの代替肉市場を牽引する企業が、ビヨンド・ミート(Beyond Meat)とインポッシブル・フーズ(Impossible Foods)ですが、現在は大手食肉関連企業も市場に参入しています。筆者が住む地域にある一般的なスーパーマーケットでは、今年に入ってから精肉コーナーの一角に、”PLANT-BASED PROTEIN”という代替肉コーナーが設けられました。ビヨンド・ミートのハンバーガー用パテやひき肉タイプ以外にも、数種類の代替肉商品が陳列されています。例えば、スウィート・アース・フーズ(Sweet Earth Foods、ネスレの傘下)のハンバーガー用パテや植物性チキン。グリーンリーフ・フーズ(Greenleaf Foods、カナダ食肉大手メープル・リーフ・フーズの子会社)のひき肉タイプ。スミスフィールド・フーズ(Smithfield Foods、アメリカ食肉大手)のパテ、およびミートボール(乳製品不使用のチーズ入り)タイプ。タイソン・フーズ(Tyson Foods、アメリカ食肉大手)の、アンガス牛と植物性肉をブレンドしたパテが並んでいました。
ビヨンド・ミートは、2019年にニューヨークのナスダック市場に上場を果たしています。同社の2019年度(12月決算)の売上は2億9,790万米ドル(315億7,740万円)で、前年度の8,793万米ドル(93億2,058万円)と比較すると239%の伸びとなっています。売上の内訳は、小売店向けが1億4,481万米ドル(153億4,986万円、前年度比185.2%増)、レストラン等の外食産業向けが1億5,309億米ドル(162億2,754万円、前年度比312%増)です。(※3)同社はデニーズ(Denny’s)やTGIフライデーズ(TGI Fridays)などのカジュアルダイニングチェーンと提携しており、同社の代替肉を使用したビヨンド・バーガーが提供されています。ファーストフードチェーンのサブウェイ(Subway)ではビヨンド・ミートボール・マリナーラ・サンドイッチ、そしてダンキン・ドーナツ(Dunkin’ Donuts)ではビヨンド・ソーセージ・サンドイッチが販売されています。また同社は、ブルー・エプロン(Blue Apron)などのミールキット企業とも提携をしています。(※4)
一方、インポッシブル・フーズの収益は公表されていませんが、ビヨンド・ミートと同様に、外食チェーンとの提携が相次いでいます。バーガー・キング(Burger King)でのインポッシブル・ワッパーの販売は、昨年アメリカでは大きな話題となりました。その他、レッド・ロビン(Red Robin)やハード・ロック・カフェ(Hard Rock Cafe)、アップルビーズ(Applebee’s)といったレストランでもインポッシブル・フーズの代替肉を使用した商品が提供されています。また、アメリカのディズニーのテーマパーク内でもインポッシブル・バーガーが提供されることが発表されています。(※5)
それでは、代替肉は具体的には何を原料としているのでしょうか。ビヨンド・ミートのハンバーガー用のパテは、えんどう豆、コメそして緑豆由来のタンパク質を使って肉の食感を実現しています。脂身は、菜種油、ココナッツ油、カカオバター、およびヒマワリ油を使用することで、パテを焼いた時にジュージューと音が鳴るようになっています。そして肉の赤い色合いには、ビート抽出物が使用されています。(※6)一方、インポッシブル・フーズの場合、肉の食感は、大豆およびジャガイモ由来のタンパク質。脂身は、ココナッツ油とヒマワリ油を使用。肉の色合いには、レグヘモグロビンが使用されています。(※7)
実際に筆者も、バーガー・キングのインポッシブル・ワッパーを食べてみました。極めて個人的な感想ですが、言われなければパテが代替肉であることに気づかないであろうと感じました。食感、味、匂い、見た目は本物の肉を使ったハンバーガーと大きく変わらず、代替肉の完成度に驚きました。アメリカでは今後ますます代替肉の商品開発が進むとみられます。今年は多くの商品が新たに登場することでしょう。
【参考文献】
(※1)https://www.gfi.org/marketresearch
(※4)https://www.vox.com/future-perfect/2019/10/10/20870872/where-to-buy-impossible-foods-beyond-meat
(※6)https://www.beyondmeat.com/about/our-ingredients/
(※7)https://faq.impossiblefoods.com/hc/en-us/articles/360018937494-What-are-the-ingredients-
代替肉、フェイクミート、ベジミート、人工肉、植物肉、大豆ミートなど
様々な呼称で広がりを見せている植物性たんぱくを使用した
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