増粘多糖類の力価を100%引き出すためには、水に完全に溶解させることが不可欠です。これは溶媒中に粉の粒子が見えなくなって透明になればOKということではなく、分子レベルで溶解を考える必要があります。今回は増粘多糖類の溶解について簡単に解説した後、各種増粘多糖類の溶解温度をまとめました。
「粉の粒子が見えず溶液が透明」=「完全溶解している」と考えるのは尚早かもしれません。
増粘多糖類には冷水溶解するものから加熱しないと溶解しないものまで様々です。そもそも「溶けている」とはどのような状態なのでしょうか?
「溶ける」という現象は「増粘多糖類が溶媒中の水分子と結びつき水和すること」を指します。この水和が十分に進行した結果、完全溶解した(溶けている)状態となります。冒頭で述べた「粉の粒子が見えなくなる状態」は溶ける過程(水和が進行中)の現象ですので、完全には溶けていない可能性があります。粉の状態の増粘多糖類は水分がないため当然水和しておらず、分子内及び分子間で水素結合を形成し、分子鎖が毛玉のようにまとまった構造(図「初めの乾燥粒子」)を取っています。この乾燥粒子状態の増粘多糖類を水に投入しても、すぐには水和せず力価は発揮されません。
時間が経つと、分子のまとまり構造の端から徐々に水分子が入り込み、水和していきます。そして分子鎖全体が水和して開いた構造になることで「完全溶解」状態となり、力価(粘度、分散能、保水能等)が十分に発揮されます。この溶解の際に重要になるのが加熱です。加熱することで水分子が分子内及び分子間に入りやすくなり、水和を進行させます。
増粘多糖類は種類によって溶解温度が異なりますが、これは分子内及び分子間結合の強度が異なるためです。冷水にも溶ける(=冷水に溶かしても力価が十分発揮される)増粘多糖類は分子内及び分子間結合が弱いため水が入りやすく、溶解に加熱が必要なものは分子内及び分子間結合が強いため水が入りにくいということです。
こちらによく使用される増粘多糖類の溶解温度をまとめました。増粘多糖類と同じような用途で使用されるタンパク質の一つであるゼラチンも併記しています。溶解温度は図のピンクの矢印を参照してください。(こちらの表はあくまで目安です。条件によって溶解性は変わります。)
例えばキサンタンガムは側鎖が多いため、粉末状態であっても分子内及び分子間距離が十分に縮まりきらず、それゆえ分子内及び分子間結合の強度が小さいという特徴があります。また、負電荷をもつ官能基の反発の影響も相まって、加熱をしなくても水和が進行し、冷水に対して溶解します。
ここで注意したいのが、表の温度で溶解させたら完全溶解する(=力価が100%発揮される)と判断することです。分子鎖の水和には塩の存在やpH、糖度など様々な要因が影響するため、完全溶解に要する時間は溶媒の条件によって異なります。そのため、ご使用のアプリケーションにおいて都度溶解の度合いを検証する必要があります。例えばドレッシングの粘度付けにキサンタンガムを使用する場合、溶解直後・溶解12時間後・溶解24時間後などでドレッシングの粘度をプロットし、時間に依らない一定値を示すのに要する時間を確認します。
増粘多糖類は食品の物性改善や食感、おいしさ創りに不可欠な素材です。効果が大きいため使用量は少量で済みますが、価格は安くはないため、力価を十分発揮させる工夫が余計なコストを削減する上で重要になります。食品開発ラボでは食品業界をはじめ増粘多糖類を使用する様々な方に有益な情報を発信しています。お困りごとについてはお問合せ窓口からもご相談いただけますので、お気軽にお問い合わせください。
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