増粘多糖類にはそれぞれ、機能を発揮できるpH帯・機能が低下してしまうpH帯が存在しています。後者のpH帯で増粘多糖類を使用していることで、求める物性に近づけるために余計に添加量を増やしてしまっているケースも見受けられます。そこで今回は、増粘多糖類とpHの関係について触れます。pHの変化によって増粘多糖類は、粘度低下やゲル強度の低下を引き起こすことがあります。各種増粘多糖類について解説した後、推奨pHを表にまとめましたので、ご参考にしてください。
目次
ペクチンは基本的に酸性で安定する多糖類です。低糖度ジャムや冷菓用ソースに使用されるLMペクチン(エステル化度が50%以下のペクチン)は、pH 3.2~6.8が推奨pHです。一方菓子ゼリーや酸性乳飲料に使用されるHMペクチン(エステル化度が50%以上のペクチン)は、推奨pHがpH 2.7~4.5とされています。HMペクチンで推奨pH帯が低く狭い理由は中性~アルカリ性域ではペクチンの主鎖が分解される(β脱離)ためです。β脱離は分子内にメチルエステル基が隣接している場合に起こりやすく、ゆえにエステル化度が高くなるにつれより分解されやすくなります。推奨pH帯以外で使用する場合、ゲル強度が低下したり、粘度が低下したりする可能性があります。
図:HMペクチンのβ脱離の反応機構。隣接するメチルエステル化ガラクツロン酸の間の結合が分解されます。
ゼリーなどに使用されるカラギナンは酸によって主鎖が分解されるため、基本的には弱酸性~中性域での使用が好ましいです。pHが下がるにつれて分解が顕著に進行し、特にpH 3.5以下で力価が大きく低下します。よって、pH 4.0以下のゼリーなどを作成する際は、ゲル強度の低下も考慮した添加量の検討が必要になります。推奨pHはカッパー・イオタ・ラムダタイプでpH 3.5~8.0となっています。酸性域のカッパーカラギナンゲルを58℃にて保持し、経時的なゲル強度変化を観察した結果を左に示しました。pHが低い方が経時的なゲル強度の低下が顕著であることが分かります。
メチルセルロースやHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)は幅広いpHで安定しています。この要因のひとつに、水素結合による主鎖の保護が挙げられます。具体的にはpH 2.0~12で安定とされています。
キサンタンガムもpH 2.0~12と幅広いpHで安定な多糖類です。この要因のひとつに、大きな側鎖が主鎖を覆うような形で存在することで保護していることが挙げられます。
ローカストビーンガム、タラガム、グアガムに代表されるガラクトマンナン類は、pH 3.5~9.0と比較的幅広いpH帯で安定とされています。要因はメチルセルロースと同様、分子内水素結合が関与していると考えられます。
シロキクラゲ多糖トレメルガムは、非常に大きな側鎖を有していおり、キサンタンガムと同様に側鎖が主鎖を覆うような形で保護していると考えられています。そのため、幅広いpH帯で力価を維持して使用することができます。
ゼラチンは増粘多糖類ではなくタンパク質ですが、ゲル化剤として使用されることが多い食品素材です。ゼラチンは処理方法により酸処理タイプとアルカリ処理タイプの2つに分けられます。ゼラチンには等電点が存在し、等電点では見かけ上の分子の電荷がなくなるため分子同士の凝集を起こしやすくなり、ゲル強度が弱くなります。そのため、ゼラチンを等電点付近で使用する場合は、添加量などの検討が必要になります。酸処理タイプの等電点はpH 6.0~9.5、アルカリ処理タイプの等電点はpH 4.8~5.1です。
キサンタンガム+ローカストビーンガムや、カラギナン+ローカストビーンガムなど、複数の増粘多糖類で作られるゲルの推奨pHは、それぞれの多糖類の推奨pHに依存します。そのため、上記の解説を参考に推奨pH内で使用します。
こちらに各種増粘多糖類の推奨pHをまとめました。増粘多糖類の力価はアプリケーションや条件によって変化しますので、こちらを参考に適宜条件検討が必要になります。具体的な条件などとともにお問合せいただければ、最適な増粘多糖類をご提案しますので、問い合わせ窓口よりお気軽にご相談ください。
※推奨pHは目安になります。推奨pH以外では添加量の検討が必要になります。
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