増粘多糖類の溶解温度と「完全溶解」について

このエントリーをはてなブックマークに追加

増粘多糖類の力価を100%引き出すためには、水に完全に溶解させることが不可欠です。これは溶媒中に粉の粒子が見えなくなって透明になればOKということではなく、分子レベルで溶解を考える必要があります。今回は増粘多糖類の溶解について簡単に解説した後、各種増粘多糖類の溶解温度をまとめました。

その増粘多糖類、「完全溶解」していますか?

出展:國崎直道「食品多糖類」2015.

「粉の粒子が見えず溶液が透明」=「完全溶解している」と考えるのは尚早かもしれません。

増粘多糖類には冷水溶解するものから加熱しないと溶解しないものまで様々です。そもそも「溶けている」とはどのような状態なのでしょうか?

  • ・「溶ける」とは

「溶ける」という現象は「増粘多糖類が溶媒中の水分子と結びつき水和すること」を指します。この水和が十分に進行した結果、完全溶解した(溶けている)状態となります。冒頭で述べた「粉の粒子が見えなくなる状態」は溶ける過程(水和が進行中)の現象ですので、完全には溶けていない可能性があります。粉の状態の増粘多糖類は水分がないため当然水和しておらず、分子内及び分子間で水素結合を形成し、分子鎖が毛玉のようにまとまった構造(図「初めの乾燥粒子」)を取っています。この乾燥粒子状態の増粘多糖類を水に投入しても、すぐには水和せず力価は発揮されません。

加熱の重要性

時間が経つと、分子のまとまり構造の端から徐々に水分子が入り込み、水和していきます。そして分子鎖全体が水和して開いた構造になることで「完全溶解」状態となり、力価(粘度、分散能、保水能等)が十分に発揮されます。この溶解の際に重要になるのが加熱です。加熱することで水分子が分子内及び分子間に入りやすくなり、水和を進行させます。

  • ・種類ごとに溶解温度が異なる理由は?

増粘多糖類は種類によって溶解温度が異なりますが、これは分子内及び分子間結合の強度が異なるためです。冷水にも溶ける(=冷水に溶かしても力価が十分発揮される)増粘多糖類は分子内及び分子間結合が弱いため水が入りやすく、溶解に加熱が必要なものは分子内及び分子間結合が強いため水が入りにくいということです。

溶解温度の一覧グラフ

こちらによく使用される増粘多糖類の溶解温度をまとめました。増粘多糖類と同じような用途で使用されるタンパク質の一つであるゼラチンも併記しています。溶解温度は図のピンクの矢印を参照してください。(こちらの表はあくまで目安です。条件によって溶解性は変わります。)

  • ・冷水溶解する増粘多糖類(キサンタンガム)

例えばキサンタンガムは側鎖が多いため、粉末状態であっても分子内及び分子間距離が十分に縮まりきらず、それゆえ分子内及び分子間結合の強度が小さいという特徴があります。また、負電荷をもつ官能基の反発の影響も相まって、加熱をしなくても水和が進行し、冷水に対して溶解します。

  • ・商品開発の際の注意と検証

ここで注意したいのが、表の温度で溶解させたら完全溶解する(=力価が100%発揮される)と判断することです。分子鎖の水和には塩の存在やpH、糖度など様々な要因が影響するため、完全溶解に要する時間は溶媒の条件によって異なります。そのため、ご使用のアプリケーションにおいて都度溶解の度合いを検証する必要があります。例えばドレッシングの粘度付けにキサンタンガムを使用する場合、溶解直後・溶解12時間後・溶解24時間後などでドレッシングの粘度をプロットし、時間に依らない一定値を示すのに要する時間を確認します。

まとめ

増粘多糖類は食品の物性改善や食感、おいしさ創りに不可欠な素材です。効果が大きいため使用量は少量で済みますが、価格は安くはないため、力価を十分発揮させる工夫が余計なコストを削減する上で重要になります。食品開発ラボでは食品業界をはじめ増粘多糖類を使用する様々な方に有益な情報を発信しています。お困りごとについてはお問合せ窓口からもご相談いただけますので、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ・ご相談はこちら

食品開発に関するお役立ち資料を無料進呈

無料!

今注目を集めている食品トレンド情報や
食品開発に関する資料を
無料でご提供しています。
是非この機会にご覧ください。

無料提供資料

今すぐダウンロード

ハイドロコロイドの基礎

無料ダウンロード!

~ペクチン・カラギナンなど徹底解説~

ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、
カラギナンなど
ハイドロコロイドに
ついて徹底解説。
ハイドロコロイドの概要から、
各種の特徴を全75ページにわたって
徹底に解説しています。
是非ご覧ください。

資料内容

  • ハイドロコロイドの概要 
    ~分類、由来原料、産地
  • ハイドロコロイド各論
    (ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、カラギナン、グァーガムなど)
  • 相乗効果、応用例 
    ~他の多糖類との併用
ダウンロードはこちら
ペクチンとは~徹底解説!構造や種類・ゲル化の仕組み

ペクチンの概要と種類、物性改良剤としての機能や使い方のコツについて解説します。

食品分野で活用される増粘多糖類。塗料分野でのニーズも高まっているため、その特性をレオロジー的視点から紹介します。

増粘多糖類は様々な食品に使用されていますが、その原料が何に由来しているかはあまり知られていません。今回は増粘多糖類の起源原料についてご紹介します。

増粘多糖類(食品添加物)におけるチキソトロピー性を解説します。

加熱してゲル化する添加物カードランの基礎を解説しています。

食品開発ラボ 運営会社のご紹介

食品の企画・開発に関わる人のための専門メディア「食品開発ラボ」は、ユニテックフーズ株式会社が運営しています。
当社では創業以来独自の素材・製品で新しい食品の価値を創造することをコンセプトに、ペクチンをはじめとするハイドロコロイドの研究や素材を組み合わせたこれまでにない特性を持つ製品の開発、加えてお客様のご要望に応じた当社製品を実際の食品に用いた利用・応用技術の開発を行っています。
商品企画・開発において何かお困りごとがあれば、きっと当社がお役に立てると思います。
是非お気軽にお問い合わせください。

サイト内検索

人気記事ランキング

  • ペクチンとは~徹底解説!構造や種類・ゲル化の仕組み

    ペクチンとは?
    構造や種類・ゲル化の仕組みなどを徹底解説!

  • 白キクラゲ多糖~概要や効果・食品応用例など徹底解説

    シロキクラゲ多糖体とは?特徴から食品応用例、効果まで徹底解説

  • 「とろとろ」「ぷるぷる」美味しさを引き出す ゲル化剤・増粘剤

    ゲル化剤・増粘剤とは?種類や用途・利用事例をご紹介

  • アルギン酸とは~構造や製造工程、効果を徹底解説

    アルギン酸、アルギン酸類とは~基礎から徹底解説

  • アップサイクル食品とは?

    廃棄寸前食材を活用!サステナブルな社会の実現を目指す「アップサイクル食品」

基礎知識特集

  • ペクチンとは~概要と種類を徹底解説

    ペクチンとは~概要と種類を徹底解説

  • キサンタンガムとは~基礎から徹底解説

    キサンタンガムとは~基礎から徹底解説

  • カラギナンとは~基礎から徹底解説

    カラギナンとは~基礎から徹底解説

  • ガラクトマンナンとは~基礎から徹底解説

    ガラクトマンナンとは~基礎から徹底解説

  • メチルセルロース・HPMCとは~基礎から徹底解説

    メチルセルロース・HPMCとは~基礎から徹底解説

  • ゼラチンとは~基礎から徹底解説

    ゼラチンとは~基礎から徹底解説

  • コラーゲンとは~基礎から徹底解説

    コラーゲンとは~基礎から徹底解説

  • アラビアガムとは~基礎から徹底解説

    アラビアガムとは~基礎から徹底解説

  • ジェランガムとは~基礎から徹底解説

    ジェランガムとは~基礎から徹底解説

  • アルギン酸、アルギン酸類とは~基礎から徹底解説

    アルギン酸、アルギン酸類とは~基礎から徹底解説

  • 寒天とは~基礎から徹底解説

    寒天とは~基礎から徹底解説

  • グルコマンナンとは~基礎から徹底解説

    グルコマンナンとは~基礎から徹底解説