カラギナンとは~基礎から徹底解説

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さまざまな特性のある多糖類は、広く食品に利用されていますが、中でもカラギナンはゲル化剤として最も使用されている多糖類の一つです。その他、カラギナンは増粘剤としてデザートや粉末ミックスに、微粒子の安定剤として飲料などにも使用されています。このカラギナンの概要や種類、特性、ゲル化についてなど、基礎から解説していきます。

カラギナンとは

カラギナンは、紅藻類から抽出される多糖類です。

紅藻類とは、体色が紅色や紫色をしている藻類のことです。

 カラギナンはその構造の違いから κ(カッパ)カラギナン、ι(イオタ)カラギナン、λ(ラムダ)カラギナンの3種類に分かれています。

当初はアイリッシュモス(Irish moss)という紅藻類の海藻のみがカラギナンの原料に用いられていましたが、その後、さまざまな紅藻類から抽出されるようになりました。

ちなみにカラギナンという名前は、古くからアイリッシュモスを利用してきたアイルランドのCarragheenという街にちなんでつけられたようです。現在でもカラギナンのことをIrish moss extractと呼ぶこともあります。

 カラギナンは基本的にガラクトース基に硫酸基がついた構造をしています。

同じく紅藻類から作られる寒天との違いは硫酸基の含有量の違いによるものだといわれています。寒天よりもカラギナンは多量の硫酸基を含有しています。

カラギナンは、この硫酸基の割合によりさらに種類が異なってきます。また、種類によって性質が変わってきます。それぞれの構造を左に示しました。(Du L. et al., 2016. クリックして拡大)

κ(カッパ)カラギナン…ガラクトース基2つに1つの硫酸基がついている。
ι(イオタ)カラギナン…ガラクトース基2つに2つの硫酸基がついている。
λ(ラムダ)カラギナン…ガラクトース基2つに3つの硫酸基がついている。

カラギナンの製造は、まず紅藻類から抽出し、ろ過、精製という工程を踏んだ後、乾燥させ、粉砕して行われます。精製法は主にアルコール沈殿法またはゲルプレス法の2種類があり、それにより溶解性や物性が異なってきます。

カラギナンの特徴

カラギナンは、主にゲル化剤、増粘剤、安定剤として、それぞれ下記の用途で使用されています。

カラギナンの使用用途

■ゲル化剤(κカラギナン、ιカラギナン)
水ゼリー、乳製品デザート、アイスクリーム、クリームデザート(ιカラギナン)、菓子ゼリー(ιカラギナン)、畜肉製品(κカラギナン)

 ■安定剤(κカラギナン)
乳飲料、缶コーヒー

 ■増粘剤(λカラギナン)
デザートクリーム、デザートソース、粉末ミックス

カラギナンの特性

カラギナンの特性としては、次のようなものがあります。
■溶解性
κカラギナン/ιカラギナン:
70℃以上の加熱溶解が必要です。また、溶媒の中にカリウムやカルシウムを含んでいる場合は冷水で溶けません。

λカラギナン:
どのような溶媒であっても低温度で溶解します。

■物性(ゲル形成・性状・離水)
κカラギナン:
冷却、カリウムイオンによってゲル形成します。寒天のような硬くハリがあってモロいゲルが形成され、離水が多くなります。ローカストビーンガムを併用することにより、弾力性のあるゲルになり、離水が少なくなります。

ιカラギナン:
カルシウムイオンによってゲル形成します。弾力性のあるゲルになり、離水が少なくなります。

 λカラギナン:
ゲル化はしません。
乳タンパクがあると増粘するため中性乳製品やスープなどの増粘剤として利用されています。またpH6以上で耐熱性がでることや、塩があると増粘する特徴もあります。

 ■たんぱく反応性
κカラギナンとιカラギナンにはタンパクと反応する特徴があり、その特性が加工食品で利用されていますたんぱく反応性あり
例えば、プリンやカスタード、アイスクリームでは乳タンパクと反応して食感改良や離水防止目的で利用されています。同様に、ハムやソーセージでも食感改良等の目的でタンパクとカラギナンの反応が活用されています。

■粘度
一般的に溶液粘度は、λカラギナンが最も高いです。
その他は、それぞれの濃度や温度、金属イオンの種類と濃度などによって異なってきます。金属イオンの存在により粘度は低下します。

カラギナンのゲル化

κカラギナンとιカラギナンは、それぞれゲル化するため、デザートやプリン、グミなどの菓子ゼリーなどに使われています。またハムのピックル液(塩せきの際の漬け液)にも使用されます。

κカラギナンとιカラギナンそれぞれのゲル化形成や性状、離水について詳しく解説します。

κカラギナンのゲル化について

κカラギナンは、冷却、カリウムイオンによってゲル形成します。カリウムイオンが特別な役割を果たすことから、低濃度でもゲルを形成します。

 ゲル化メカニズムとして有力なのは、κカラギナンとカリウムイオンの溶液を冷却すると、2重らせん構造が生じてゲル化するというモデルです。カリウムイオンがカラギナンの硫酸基の一部を中和することで、電気的な反発が弱くなり会合・凝集してゲルをつくります。カルシウムイオンは二つの異なる二重らせん上の硫酸基間を架橋し、交差結合をつくります。そのためカルシウムイオンは少量添加することによりゲルは強くなりますが、量を多く添加しすぎると逆効果になります。

ιカラギナンのゲル化について

ιカラギナンは、カルシウムイオンによってゲル形成します。ιカラギナンとカルシウムイオンの溶液を冷却すると、二重らせんの自由鎖が結合し、連続するネットワークを形成して、透明で弾力のあるゲルがつくられます。

このゆるい結合によるネットワークは力をかけると容易に破壊されます。しかし長い時間静置することで再構成される性質があり、これは「チキソトロピー性」と呼ばれます。例えば、瓶に入ったケチャップをそのまま傾けても流れにくいですが、激しく振ると簡単に流れ出るようになります。流れ出たケチャップを静置しておくと元のどろったした状態に戻るといったような物性です。

まとめ

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