ダマを防ぐ溶解方法の手引き
ハイドロコロイドが溶液に完全溶解すると、増粘やゲル化作用を引き起こします。一言に「増粘」「ゲル化」といっても、各種ハイドロコロイドの特性によって最終的な溶液の物性は様々です。今回は、増粘とゲル化の特性について解説します。
目次
増粘作用は、溶液中でハイドロコロイドが完全溶解して巨大な分子鎖が広がり、その分子鎖同士が結合しない場合に生じます。増粘特性は、ハイドロコロイドの分子量・構造・剛性率(力に対する変形のしずらさの度合い)等によって変化します。
このような巨大分子は体積が小さく、溶液の流動性に与える影響が小さいです。そのため粘度は低くなり、この溶液はどんな速度の力を加えても粘度が変化しない特性「ニュートン流動」を持ちます。
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このような巨大分子は、前項の“球状または分岐が多い巨大分子”に比べて体積が大きく、溶液の流動性に与える影響が大きいです。そのため粘度は高くなります。またこの溶液は力の速度を上げるにつれて粘度が低下する性質「シュードプラスチック性」を持ちます。この性質は加えられた力によって巨大分子の向きが揃うことによって生じます。
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このような巨大分子は前項の2種の巨大分子よりも体積が大きく、溶液の流動性に与える影響が大きいため粘度は高くなります。またこの溶液は静置状態で非常に安定しており、ある一定以上力の速度を上げない限り流動性が生じない性質を持ちます。いったん流動性が生じた後は、力の速度を上げるにつれて粘度が低下し(シュードプラスチック性)、加えてこの反応は前項の“伸びている巨大分子”よりも瞬時に起こります。
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~ペクチン・カラギナンなど徹底解説~
ゲル化作用は、溶液中でハイドロコロイドが完全溶解して巨大分子鎖が広がり、その分子鎖同士が結合して立体的な網目構造を作ることで生じます。ゲル化特性は、結合ゾーンの形状・量・強さ等によって変化します。
カラギナンの巨大分子は規則的なコイル状構造をもちます。カラギナンの分子鎖同士は、この規則的な構造が水素結合によって二重らせんを形成することでゲル化します。このゲルは熱可逆性の性質をもちます。
LMペクチンの巨大分子は負電荷をもつ酸性ガラクツロン酸を多く含んでいます。LMペクチンの分子鎖同士は、この負電荷をカルシウムイオン(Ca2+)が中和し、プリーツ状に安定化することで結合、ゲル化します。このゲル化モデルを“エッグボックス”モデルといいます。このゲルはカルシウムイオンの量によって熱可逆性であるかどうかの性質が決まります。
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キサンタンガムおよびローカストビーンガムは、単体で使用した場合、分子鎖間の結合が生じないためゲル化しません。しかし、この2種を併用するとゲル化作用が生じます。キサンタンガムは二重らせん構造をもちます。またローカストビーンガムは規則的で置換基(ガラクトース)を持たない領域を持ち、ここがキサンタンガムの二重らせん構造と結合することで網目構造ができ、ゲル化します。
ガラクトマンナン類の溶液は高い粘性作用を持ち、シュードプラスチック性を示します(“増粘特性 -伸びている巨大分子-” 参照)。また高温になると粘度が大きく落ちる傾向があります。
またローカストビーンガムとタラガムは単体では増粘作用のみをもちますが、κ(カッパ)カラギナンやキサンタンガムと併用するとゲル化作用を生じます (“ゲル化特性 -他種の分子間のゲル化モデル-“ 参照)。
それぞれのガラクトマンナン類の特徴は以下の通りです。
ペクチンの溶液はゲル化作用を持ちます。またペクチンは主鎖であるガラクツロン酸のエステル化の度合い(以降、エステル化度)によってHMペクチンとLMペクチンに分かれ、それぞれゲル化要因が異なります。
●HMペクチン
HMペクチンはエステル化度50%以上のペクチンで、中性であるメチルエステル化ガラクツロン酸を多く含みます。そのためペクチン鎖同士の会合による水素結合によってゲル化します。またこのゲルは熱不可逆性です。
ゲル化要因は、①高糖度 (Bx55以上) 、②低pH (pH3.5以下)であり、また③エステル化度が高いほど反応速度が上昇します。
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●LMペクチン
LMペクチンはエステル化度50%未満のペクチンで、酸性であるガラクツロン酸を多く含みます。そのため、カルシウムイオン等の陽イオンによってゲル化します。
ゲル化要因は、①陽イオンの存在、また②エステル化度が低いほど反応速度が上昇します。
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カラギナンは硫酸基をもつガラクトースで構成されます。ガラクトースの結合構造と硫酸基の割合によってκ(カッパ)、ι(イオタ)、λ(ラムダ)の3種に分かれ、それぞれ増粘・ゲル化特性が異なります。
●κ(カッパ)カラギナン
κカラギナンの溶液はゲル化作用を持ちます。これは構造上の特徴から規則的ならせん構造と“ねじれ”を形成し、他分子との結合ゾーンが存在するためです。またゲル化作用は①カリウムイオンと②カルシウムイオンの影響を受けます。
①カリウムイオン:非常に低濃度でもゲル化作用を起こします。このイオンのサイズは小さいため、κカラギナンの二重らせん構造に入り込み、硫酸基の負電荷を弱めます。すると分子鎖同士が会合状態となり、硬くて脆いゲルを形成します。
②カルシウムイオン:異なる2つのκカラギナンがもつ二重らせんの硫酸基間に架橋を作り、ゲルを形成します。しかしイオン量が多すぎるとゲル強度が低下します。
●ι(イオタ)カラギナン
ιカラギナンの溶液は透明で弾力のあるゲルを形成します。これは二重らせんの自由鎖の部分が結合することでゆるやかな網目構造を作るためです。このゲル化構造は攪拌によって簡単に壊れますが、攪拌を止めると再度ゲル化する性質「チクソトロピー性」を持ちます。またカルシウムイオンを添加するとゲル強度が上昇します。
●λ(ラムダ)カラギナン
λカラギナンはゲル化作用を持たず、増粘作用のみを持ちます。これは構造上の特徴からκやιカラギナンのようならせん構造が形成できず、結合ゾーンをもたないためです。またこの溶液はシュードプラスチック性(“増粘特性 -伸びている巨大分子-” 参照)を示します。
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キサンタンガムの溶液は低濃度で高い粘性作用をもち、シュードプラスチック性を示します。またこの溶液は静置状態で非常に安定しており、ある一定以上力の速度を上げない限り流動性が生じません (“増粘特性 -変形が少なく伸びている巨大分子-“参照) 。加えて熱・塩・pHの影響を受けにくく、あらゆる環境下で粘性を保持します。これらの性質は、キサンタンガムの構造(主鎖に対して側鎖が大きく、囲むような構造)により硬い棒状の分子鎖を形成するためです。
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~ペクチン・カラギナンなど徹底解説~
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