増粘、ゲル化、離水防止等、あらゆる用途で力を発揮するハイドロコロイド。ハイドロコロイド製品の多くは乾燥状態の粉末で販売されていますが、使用する際には「ダマ」を作らず分散させ、水に「完全溶解」させることが重要です。今回は、この「ダマ」を防ぐ秘訣やハイドロコロイドの構造と溶解の関係性について解説します。
目次
ハイドロコロイドの溶解プロセスで「ダマ」ができてしまう原因と、それを防ぐための分散方法について解説します。
一般的にハイドロコロイドの溶解プロセスは、乾燥粒子を水へ添加→粒子の分散→粒子の膨潤(水和)→分子の分離→完全溶解、になります(図1)。この流れの中で「ダマ」発生の原因となるのは、「粒子の分散」のステップです。ハイドロコロイドは非常に水になじみやすい性質をもちます。そのため、粒子が分散せず固まったまま水へ添加されると、外側のみが膨潤状態になり、内側に水が入らなくなります。これが「ダマ」です(図2)。ダマが発生してしまうとハイドロコロイドの力を十分に発揮できなくなるため、それを防ぐ秘訣として「粒子の分散」が重要になります。
上手に「粒子の分散」を行うための基本的な方法をご紹介します。
(方法1)粗いサイズ(100-500ミクロン)のハイドロコロイドを使用する
(方法2)3-5倍量の他粉末(ex. 砂糖、デキストリン等)と混合する(図3)
(方法3)ハイドロコロイドが溶解できない中間溶媒(ex. 液糖、アルコール等)に分散させる(図4)
(方法4)溶媒に強い攪拌(ex. ハンドミキサー等)を与え、攪拌によってできた溶媒の渦に向けて、少量ずつゆっくり途切れることなく添加する(図5) 等
続いて、分子の分離→完全溶解のステップについて解説します。ハイドロコロイドは完全溶解させるために加熱が必要かどうかによって「冷水溶解」と「加熱溶解」の2タイプに分かれます。これはハイドロコロイドの構造が関係しています。
※一部のハイドロコロイドを除き、冷水溶解タイプも加熱溶解して問題ありません。熱をかけることで溶解速度や溶解度が上がります。
ガラクトマンナン類は、主鎖マンノース、側鎖ガラクトースで構成される中性多糖です。主鎖と側鎖の比率によって、溶解条件が異なります。
●グァーガム → 冷水溶解タイプ
グァーガムはマンノース:ガラクトースの比率が2:1であり、側鎖が多いガラクトマンナンです。そのため、分子鎖間で水素結合が生じにくくなります。よって、加熱等の処理がなくても分子鎖が離れやすいため、「冷水溶解」の性質をもちます(図6)。
●ローカストビーンガム → 加熱溶解タイプ
ローカストビーンガムはマンノース:ガラクトースの比率が4:1であり、側鎖が少ないガラクトマンナン類です。そのため、分子鎖間で水素結合が生じやすくなります。よって、分子鎖を離すためには加熱(=水素結合の分解)が必要になるため、「加熱溶解」の性質をもちます(図7)。
●タラガム → 一部冷水溶解(80℃で完全溶解)
タラガムはマンノース:ガラクトースの比率が3:1であり、グァーガムとローカストビーンガムの中間の性質を持ちます。
●ペクチン → 加熱溶解タイプ
ペクチンは、主鎖ガラクツロン酸で構成される酸性多糖です。ガラクツロン酸はメチル化されると中性のメチルエステル化ガラクツロン酸になります。ペクチン中に含まれるメチルエステル化ガラクツロン酸の割合を「エステル化度」といい、この度合いによってHMペクチンとLMペクチンに分かれます。また、ペクチンには「毛状領域」という側鎖(ラムノース、ガラクトース等の中性糖)の多い領域が存在します(図8)。
高いエステル化度と毛状領域は、ペクチンの溶解性を高くします。メチルエステル化ガラクツロン酸のメトキシル基と側鎖によって立体障害が生じ、分子鎖同士が離れやすくなるためです。しかしペクチンの構造はかなり複雑であり、種類によって溶解温度は様々です。そのため、基本的には「加熱溶解タイプ」であり、溶解温度は65~80℃とされています。
カラギナンは、硫酸基をもつガラクトースで構成されます。ガラクトースの結合構造と硫酸基の割合によって、溶解条件が異なります。
●κ(カッパ)、ι(イオタ) → 加熱溶解タイプ
4C1構造と1C4構造が交互に並んだガラクトース2つにつき、1つの硫酸基をもつのがκ(カッパ)カラギナン、2つの硫酸基をもつのがι(イオタ)カラギナンです。この構造により、κとιカラギナンの分子鎖は水和状態のとき硫酸基を外側に向けた状態のらせん構造をとります。よって、らせん構造をほどくには加熱処理が必要になるため、「加熱溶解」の性質をもちます(図9)。
●λ(ラムダ) → 冷水溶解タイプ
4C1構造のみで並んだガラクトース2つにつき、3つの硫酸基をもつのがλ(ラムダ)カラギナンです。この構造により、λカラギナンの分子鎖は水和状態のとき硫酸基を内側に向け相互に反発し合い、らせん構造をとれません。よって加熱処理なく分子鎖がほどけるため、「冷水溶解」の性質をもちます(図10)。
●キサンタンガム → 冷水溶解タイプ
キサンタンガムは主鎖グルコース、側鎖がグルコース2分子に対してマンノース2分子とグルクロン酸が規則的に結合して構成されます。主鎖に対して側鎖が大きく、囲むような構造をしていること、また側鎖にグルクロン酸があるため分子鎖同士の電気的反発が起こることにより、熱処理なく分子鎖が広がるため、「冷水溶解」の性質をもちます(図11)。
今回紹介したハイドロコロイドの構造と溶解性(溶解温度)について表にまとめます。
ハイドロコロイドの力を十分に発揮させる使い方は、ダマを作らない「分散方法」、そして各ハイドロコロイドの構造特徴に合った「溶解温度」が重要になります。ぜひ、食品開発にお役立てください。
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