健康経営のキーとして「社員食堂」に力を入れる企業が増えたのは記憶に新しいところ。
いま新たに話題になりつつあるのは、大学の「学生食堂」、「ガクショク」です。
その中でもオープンの翌2016年に、学生サークルが選ぶ「学食ランキング」でいきなりトップに立って注目を集めた千葉商科大学の “The University DINING”におじゃまし、その狙いや人気の秘密をお聞きしてきました。
都内から江戸川を渡り市川市に入ったところにある千葉商科大学。今年で創立90周年を迎える歴史のある大学ですが、正門を入るとまず目に飛び込んでくるのが、ガラス張り、平屋の大きな建物。これが、今回お目当ての新しい「学食」、“The University DINING”です。
アメリカ・カリフォルニア州あたりの大学にありそうな開放的な建物に入ると、そこには350席(!)が並ぶ空間が広がっています。その一角で、まずは、このニューウェーブの学生食堂のコンセプトづくりから携わられた西尾淳先生(サービス創造学部教授)に、その成り立ちを伺いました。
「以前の学食は、どこの大学にもある雰囲気や味には無頓着という感じのものだったようです。ところが建物が旧くなり、リニューアルする必要が生じ、その機会に、『いっそ、まったく新しい考え方のものを』という機運が持ち上がったのです。それがちょうど私がこの大学に来た時期と重なり、気がついたら『新・学食プロジェクト』のコアメンバーに据えられていました」
ちなみに西尾さんの前職は、大手広告代理店のアートディレクター。大学でも美術やデザインなどを教えています。そうした経歴から、「目に見えて新しい」学食の姿を期待されたのかもしれません。
「実は建築そのものについては、すでにプランがほぼ出来上がっていたのです。それからできる範囲内で魅力を最大化できる方法として、インテリアについて一からデザインをしなおしました。光が溢れる明るさは生かして、大きなイラストボードを造ったり、テーブルや椅子を新たに選んだりしました。このあたりは、メニュー設計も含めて事業パートナーとして一緒に走ってくれた、『トランジット・ジェネラル・オフィス』さんの力を存分に借りることができました」
トランジット社は東京で数多くの人気レストランの運営を行っている、その世界では知らぬ人のいない会社。ところが同社としても、実は学生食堂の企画・プロデュースは初めてだったと言います。
西尾さんの隣で、現マネージャーの細谷雄一郎さんが語ってくれました。
「私自身、ファミリーレストランの店長経験などはあったのですが、この規模は初めて。しかも、学食らしい価格帯で運営していくことは果たしてできるのだろうか、と正直不安でした」
それでも新・学食プロジェクトに対する期待感は日増しに高まります。そうした中で西尾さんがプロジェクトで貫いたのは、「学生が居たくなる場所」をつくることだったといいます。
「学生は人生の大事な4年間を、このキャンパスで過ごすわけです。その中で学食が、単にお腹を満たすだけの場所では、ちょっと寂しいな、と。彼らが自然に集まって来て、語り合い、触れ合って何かの活動がそこから生まれてくるような、そんな空間を創りたかったのです」
確かに、取材に伺った昼前の時間帯にすでにテーブルを囲んでいる学生たちは、何か楽しそうな会話に熱中しています。どんなことを語らっているのでしょうか。
「それに私の所属は『サービス創造学部』ですからね」 西尾先生が語ります。
「ここ自体が、新しいサービスのかたちを表現しているような、そんなことを目指してみたわけです」
なるほど。ここは集いの場でありながら、研究成果を体現する場でもあるというわけですね。
とはいえ、やはり「学食」ということで、まずはメニューを見せてもらうことにしました。
ランチメニューは大きく2種類。「レギュラーセット」は、プリフィックス・スタイルと言いながら、メインディッシュが3~4料理のうちから1つ、サイドディッシュが4~6種用意された中から2つを選べます。これだけで数十通りの選択肢があるわけですね。ちなみにこの日のメインディッシュは「鶏の濃厚トマト煮込み」「きのこのクリームシチュー」「サバの中華風あんかけ」でした。
それにスープとごはんがついて満足の550円。よりシンプルな「DONセット」は、日替わりの丼にサイドディッシュが一つ、スープがついて450円。これなら、外に食べに行かなくても大丈夫ですね。私たちもさっそく選ばせていただきました。おいしくてバランスのよいランチを取りながら、学生の会話も弾んでいるようです。
もう少し軽く食事したいという場合は、カウンターの反対側に回ると、建物内のベーカリー製の焼き立てのパンが並んでいます。「自由が丘ベイクショップ」をディレクションした方が監修しているそう。サンドイッチやコーヒーも注文することができます。私たちが食後にいただいたコーヒーは、街の専門店にも決して負けない味と香りでした。
実は初めてThe University DININGに入ってびっくりしたのは、学生とは見えないお客さんが目立つことでした。他の大学の学食でも、学生以外の人たちが食事をしていることはありますが、それは何かの仕事で来た人や職員が手っ取り早く食べているといったことが多く、なんとなく居心地が悪そうでした。
このThe University DININGには、小さな子を連れたママさんや、近所のご夫婦といった風のお客さんが目についたのです。さすがに授業間の昼休みである約1時間は学生優先となるようですが、逆に早めの時間、遅めの時間には学外者の利用を歓迎しているのです。
それは、大学が単なる教育機関としてでなく、地域に開かれた存在、そしてコミュニティのコアとしての役割を担うべきだ、という考えが具現化されている姿でした。近隣の住民の方も、「おいしくて、安くて、栄養や素材も考えられたレストラン」として活用しているようです。ここでの交流が元になり、地域と大学が手を携えて行う活動が盛んになってくるのも遠いことではないのではないか、と感じさせられました。
テレビドラマや映画の撮影にもよく使われるというキャンパスには、明るい表情の学生たちが行きかっています。以前に訪れた時と比べて感じたのは、スタイリッシュな女子学生がとても多くなったこと。「サービス創造学部」の創設も女子学生増につながったとのことですが、「The University DINING効果」も見逃せないようです。少子化の中にあって、全体の入学生募集にもプラスに働いていると聞きました。
千葉商科大学にはもうひとつ、「学生ベンチャー食堂」というシステムがあります。こちらは、「こういうメニュー、スタイルで飲食店をやってみたい」というプランを学生から募集し、審査を通った発案者に一定期間運営をまかせてしまうという大胆な取り組み。在学中に起業体験もできる仕組みに、店長や料理長役を生き生きと実践している学生は、The University DININGのおしゃれさとはまた別のバイタリティを発揮している印象を受けました。
「学食づくりは、実は大学の中ではかなりクリエイティブ度が高い仕事なんです」と言って笑った西尾先生。
そのリーダーシップのもと、創立百周年に向けて盛り上がる大学は、新しい「食と集いの場」のあり方をこれからも見せてくれることでしょう。
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