ここ数年、世界では植物性の原材料でつくられた代替肉が次々と登場し、日本でも大豆からつくられた代替肉の商品などを手軽に購入できるようになりました。植物性の代替肉は食品業界において大きなトレンドを生み出しましたが、実は今、世界の大手企業やスタートアップ企業が「代替シーフード」の食品に関心を寄せています。日本企業による開発も散見されるようになりましたが、この記事では「代替シーフードの海外トレンド」をテーマに、海外の植物性シーフードの製造・販売、そして培養シーフードの研究開発を進める海外の企業について特集します。
(調査日:2022年2月)
目次
代替シーフードとは、魚介類に代わる原料を用いて本物の魚介類と同じような見た目、味、触感を再現した加工食品のことです。代替シーフードには、魚介類を使う代わりに植物由来の材料を使う「植物性シーフード」と、魚や甲殻類の細胞を培養してつくる「培養シーフード」などがあります。それぞれの具体的な取り組みについては、海外企業を例に後述します。
代替シーフードの開発が進む背景としては、世界の海洋水資源の減少や、漁業による海洋プラスチック問題、水銀に対する不安などが挙げられます。(※1)
アメリカのNPO法人Good Food Instituteによると、代替シーフードを製造する企業数は、2017年時点では世界で29社ほどでしたが、2021年6月までに少なくとも87社に拡大しました。そして世界の代替シーフード企業への投資額も大きく増加しています。2020年は合計9,000万ドルの投資が行われましたが、2021年は最初の6ヵ月間で1億1,600万ドルに達しました。(※2)
では、ここからは世界の企業における代替シーフードに対する取り組みを見ていきましょう。
現在、代替シーフードにおいて主流となっているのが、魚介類の成分は使わずに、こんにゃくや大豆、海藻などの植物由来の原材料を使った「植物性シーフード」というものです。
2019年創業のスウェーデンのスタートアップ企業Hooked Foods社は、小麦たん白、大豆たん白、ひまわり油を使った植物性ツナ(商品名:Toonish Tomato)を展開しています。100gあたり115kcal、たんぱく質量は6.89gです。トマト入りの味付けで、ツナとしてそのまま食べるだけでなく、パスタやピザ、サンドイッチの具材に使うこともできます。なお同社は2021年9月に380万ユーロを調達しており、現在は植物性サーモンの開発も進めています。(※3)
デンマークに拠点を置くCavi-art社は、海藻由来のキャビア(商品名:Cavi-art)を製造・販売しています。製造方法は、まず海藻を乾燥させて粉末にします。その後、塩やスパイス、水、クエン酸を混ぜて液状にし、最後にパール状に加工します。同社によると、海藻キャビアは環境にやさしいことに加え、低価格で販売できる点も特徴の1つです。同商品はスーパーマーケットでも販売されていますが、Cavi-art社は、飲食店やその他フードサービス業向けに、寿司のトッピングで使われるマサゴとトビコの代替品となる海藻由来の魚卵(商品名:Tasago)も販売しています。
このように、一般消費者向けに販売されるだけでなく、飲食業向けに提供されている代替シーフードもあります。
https://caviart.com/
培養シーフードは、魚やエビ・カニなどの甲殻類の細胞を培養した食材のことで、さまざまな企業が研究開発を進めていますが、培養肉を含め市販における規制を整備することが各国での課題となっています。
アメリカのサンフランシスコを拠点とするWildtype Foods社は、細胞培養による培養サーモンを開発しています。特に同社が手掛けているのが生食用サーモンです。培養の方法は、まずサーモンの身から細胞を摂取します。その細胞に、糖分、脂肪、タンパク質、電解質、ミネラルなどの栄養分を加えた培養液を与え、タンクの中で培養。その後、植物から作られた専用容器に細胞を入れ、サーモンの身の形になるまで育てていきます。なお、同社は2021年12月に、全米のスーパーマーケットで寿司バーを運営するSnowfox社、およびファストカジュアルレストランを運営するPokéworks社との提携を発表しました。これにより、アメリカで培養サーモン販売に関する規制が整備されると、同社は多くの消費者に培養サーモンを提供することが可能になります。(※4)(※5)
Avant社は、培養魚肉の研究開発を進める香港形のスタートアップ企業です。同社は培養魚の切り身や、魚の細胞を活用した化粧品原料の開発を行っています。Avant社はすでにシンガポール科学技術研究庁と提携しており、食品用の細胞培養魚の生産を拡大するための共同研究所がシンガポールに設立される予定です。シンガポールにおける培養シーフードに関する規制は整備段階ですが、シンガポールは世界で初めて培養肉の販売を許可した国でもあります。Avant社は試験生産設備を2022年あるいは2023年初めに稼働させ、2023年をめどにシンガポールでの商用化を目指しています。(※6)(※7)
今回は、代替シーフードの概要と代替シーフードを手掛ける海外企業について特集しました。代替シーフードは、家庭用での販売はもちろん、Cavi-art社、Wildtype Foods社のように業務用分野での取り組みも進んでいます。また、食材としてのみならず、調理済み商品としての開発も進んでおり、注目が高まりつつある状況です。
植物性肉にみられたように、植物性シーフードも世界でこれから大きなトレンドになるのかもしれません。また、市場に出回るには数年かかるかもしれませんが、培養シーフードも今後の動きが注目されます。
【参考資料】
(※1)
https://www.forbes.com/sites/lanabandoim/2020/06/03/plant-based-fish-is-the-new-vegan-trend/?sh=34b67fc92ba7
(※2)
https://gfi.org/wp-content/uploads/2021/07/Seafood-SOTIR.docx-4.pdf
(※3)
https://thefishsite.com/articles/swedish-plant-based-seafood-startup-lands-major-investment
(※4)
https://www.fooddive.com/news/wildtype-agreement-will-bring-cell-based-sushi-to-grocery-stores-and-restau/611384/
(※5)
https://www.businessinsider.com/wildtype-cultivated-cell-grown-salmon-looks-feels-tastes-real-2021-10
(※6)
https://www.a-star.edu.sg/News/a-star-news/news/press-releases/Advancing-scalable-production-of-cultivated-fish
(※7)
https://www.nna.jp/news/show/2264979
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