食品を含め、近年は物価の上昇が著しいです。特に食品において、価格高騰が悩みの種になっているのが鶏卵になります。卵は物価の優等生と言われるほど価格が安定しておりましたが、急激な価格上昇を示しております。いったい今何が起きているのか、見ていきましょう。
目次
まずは近年の卵の価格推移を確認しましょう。JA全農たまご株式会社では鶏卵相場 (円/kg)を公表しています。ここで東京全農の卵のMサイズの推移は図のようになっており、2022年~2023年にかけて1.5倍以上に急騰しております 1)。卵は、ケージ飼いの推進、機械化の推進、飼料の改良などの努力によって、長年安定した価格で供給されていました。しかしながら、下記に挙げる要因によって価格上昇の基調になっています。
鶏卵の価格(円/kg)の推移 出典 : 参考文献1
ロシアのウクライナ侵攻の影響で各種穀物の価格は上昇していますが、鶏の飼料として用いられるトウモロコシもその影響を受けています。加えて、円安相場も輸入飼料の価格の負担となっています。実際に成鶏用飼料価格のデータを確認しますと、2022年1月から2022年12月にかけて約20%も上昇しています2) 。
2022年シーズンは、過去最悪規模での鳥インフルエンザが蔓延しております。農林水産省では2023年4月8日現在で、約1,771万羽が殺処分の対象になったと報告しています 3)。これは国内の採卵鶏の10%以上に相当し、まさに卵の安定供給を揺るがす事態となっております。採卵鶏のライフサイクルは約2年と言われておりますので、元の生産体制に戻すのにも、しばらく時間がかかる見込みとなっております。
卵価格の高騰、卵生産量の減少は食品業界に大きな打撃を与えています。外食産業では卵メニューの休止・制限を決定した企業も少なくありません。株式会社帝国データバンクの調査では、上場する外食主要100社において、3月5日時点で少なくとも18社が卵メニューの休止・休売に踏み切ったことが報告されています4)。また卵代替メニューの開発に取り組み企業も出てきています。大手コンビニ企業では、卵代替のサンドイッチの開発に取り組んでいます5)。 大豆などから作られた代用卵を用いており、調整を重ねることで食べやすくなってきているとのことです。
今回の卵の価格高騰は日本国内だけではなく、世界規模で発生しています。米国、EU、タイ、フィリピン、ニュージーランド、ケニア、メキシコ、ブラジルなどで歴史的な高騰となっており、「Eggflation (卵インフレ)」と形容されるほどです 6)。Nan-Dirk Mulder (2023) では、今後は価格が下がることがあっても以前のような安価な価格になることは難しいとみております。
日本国内の見通しとして、野村農林水産大臣は今年の3月の時点で元に戻るのに1年ほどという見解を示しております 7)。一方で、今秋以降の鳥インフルエンザの感染拡大状況、穀物価格の今後の推移、アニマルウェルフェアの高まりによるケージ飼いの見直しの可能性など、不確定な要素も多い状況です。
卵の価格高騰の裏で、代用卵に注目が集まっています。ここでは代用卵とはどのようなものか簡単に説明します。
代用卵とは、卵を使わずに料理を作る際に代わりに使用される食材のことです。代用卵の成分、原料には、卵白や卵黄に含まれるたんぱく質や脂質、水分などを代替するものが使用されます。具体的には、豆腐やプロテイン、セルロースやカラギナンなどが使用され卵らしさを表現するさまざまな工夫がされています。
また、代用卵によって、卵を使うことで引き起こされるアレルギー反応のリスクを減らすことができるのも大きなメリットの1つです。
代用卵の値段は、一般的な卵よりも少し高価になります。しかし代用卵によって卵を使うことができない人や、環境問題に敏感な人たちに値段以上の価値を与えることが可能になるでしょう。
代用卵は通常の卵に比べて栄養素が劣りますが、植物性のタンパク質が含まれていることで消化しやすく体に優しいという特徴もあります。代用卵を利用したレシピにはケーキやマフィンなどのお菓子製品から、スクランブルエッグ、ゆで卵風レシピまで工夫を凝らしたレシピが多くあります。
このように現在の卵の価格上昇は様々な要因が関わっています。加えて、卵の安定供給のための動き、卵代替原料の拡大の動きなど様々な取り組みが進んでおります。卵という普段の食卓に欠かせない食材であるため、今後も動向に注視する必要があります。
【参考文献】
1) JA全農たまご株式会社 相場情報
https://www.jz-tamago.co.jp/business/souba/graph/ (2023年4月17日閲覧)
2) 一般社団法人 日本養鶏協会 需要動向
http://www.jpa.or.jp/tokei/fp/jyukyudoukou/hyo230407.pdf (2023年4月17日閲覧)
3) 農林水産省 令和4年度 鳥インフルエンザに関する情報について
https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/220929.html (2023年4月17日閲覧)
4) 株式会社帝国データバンク 特別企画:「上場主要外食 100 社」卵メニュー休止状況調査
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p230301.pdf (2023年4月17日閲覧)
5) TBS NEWS DIG コンビニも“代替たまご”サンドイッチ開発 卵の歴史的高騰で企業も試行錯誤 卵の量を3分の1減らした炒飯弁当にメニューを変更する弁当も
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/433653 (2023年4月17日閲覧)
6) Nan-Dirk Mulder, Eggflation: What Happens After Egg Prices Reach Historic Highs,April 2023
https://research.rabobank.com/far/en/sectors/animal-protein/what-happens-after-egg-prices-reach-historic-highs.html (2023年4月17日閲覧)
7) 農林水産省 野村農林水産大臣記者会見概要
https://www.maff.go.jp/j/press-conf/230331.html (2023年4月17日閲覧)
営業本部営業戦略G所属 2018年入社。
ゼラチンの基礎研究業務や機能性原料の営業業務への従事歴を持ち、現在はそれらで培った情報分析能力を生かし、機能性原料販売の企画・立案業務に取り組む。
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