アイススラリーとは? 酷暑で市場が広がる「飲める氷」

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年々過酷になる日本の夏。暑熱対策は重要性を増しています。
2025年6月1日、改正労働安全衛生規則が施行され、事業者には「熱中症対策」が法的義務として課されることとなりました1)
この背景には、昨年(2024年)の職場における熱中症による死傷者数が過去最多を記録し、特に建設業や製造業など高温環境下で働く労働者のリスクが深刻化したことがあり、対応の遅れが死亡事例にも繋がりました。

こうした状況下のなか、炎天下の現場やスポーツ現場では最新の暑熱対策として、「アイススラリー(飲める氷)」の注目が高まっています。今回はアイススラリーの特徴や飲むシーン・タイミング、市販品の情報のほか、アイススラリーのOEMや商品開発に向けた勘所を紹介します。

アイススラリーが「飲める氷」として評価される理由

アイススラリーは、微細な氷の粒子が液体の中に分散した「飲める氷」です。語源は Ice(氷)と Slurry(液体中に固体微粒子が均一に分散した状態の混合物)の組み合わせで、一般的な飲料と固形の氷のあいだに位置づく存在といえます。冷却の要諦は、氷が溶けるときに周囲から熱を奪う相変化(融解潜熱)にあります。粒径が小さいほど体に触れる表面積が大きくなり、体感の冷却に寄与しうると理解されています。通常のスポーツドリンクより低温で、かき氷よりも飲みやすいーこの「ちょうどいい隙間」が、暑熱下の現場やスポーツで評価を高めています。

近い存在として、冷凍ゼリーや氷菓、凍らせたスポーツドリンクがありますが、凍結されて固体化されている状態では、飲みやすさや融解潜熱という点で暑熱対策飲料としてアイススラリーが適しています。アイススラリーは、飲用性(嗜好性)と冷却の両立をねらえる点が特長です。

普及の背景:猛暑、現場、スポーツでのニーズ

日本では近年、猛暑日の増加とともに暑熱対策が社会課題として定着しました。従来の「水分補給、塩分補給」やファン付き作業服など「外部冷却」だけでなく、体の中から冷やすアプローチ(内部冷却)への関心が高まり、アイススラリーはその選択肢の一つとして受け止められつつあります。
建設や重工、製鉄といった高温・高湿・作業服の環境でも喫食しやすい形態が評価され、普及が進んでいます。
スポーツの領域でも、プレクーリング(運動前の冷却)は早くから注目されてきました。トップアスリートや大学スポーツでの活用、国際大会の暑熱対策など、内側から深部体温を下げるニーズが具体化したことは普及の追い風になりました。

流通面では、コンビニエンスストアやドラッグストアでの季節展開が身近さを後押ししています。さらに、過冷却状態から振るだけでスラリー化できる専用冷蔵庫や、常温で流通し、飲む直前に凍結してスラリー化できる処方の登場など、機器と製剤の両面で「手間を減らす」技術が前進している点も見逃せません。

アイススラリーの商品例

現在の日本市場では、パウチ形態が主役です。凍らせて持ち運び、飲む直前に揉みほぐして流動性を出すという飲みやすさと簡便さの両立が、現場やスポーツの「その場運用」に馴染んでいるようです。
味設計はスポーツドリンク系が中心で、内部冷却とともに水分と電解質の同時補給も訴求されています。
(調査日:2025年7月)

ポカリスエット アイススラリー(大塚製薬)

大塚製薬の「ポカリスエット アイススラリー」は、おなじみのポカリスエット味です 。Tパウチ形態で内容量は100g。
常温保存でき、家庭で凍らせるだけでスラリー状になる独自技術が特長 。ポカリスエットの電解質はそのままに、体を内側から効率的に冷やします 。口コミでは「なめらかな口当たりで飲みやすい」「馴染みの味でさっぱりしている」と、その味と食感が好評で、夏の活動前のプレクーリングや休憩時のクールダウンに活用されています 。

リポビタンアイススラリー Sports

大正製薬の「リポビタンアイススラリー Sports」は、ハニーレモン風味、りんご風味などを展開しています 。スパウト付パウチ形態で内容量は120g。
エネルギーの源となるクエン酸やビタミンB群を配合し、冷却だけでなく栄養補給もサポートします 。アスリートが安心して飲めるアンチ・ドーピング認証「インフォームドチョイス認証」を取得しているのも大きな特徴です 。口コミでは「後味がさっぱりしていて美味しい」「キャップ付きで少しずつ飲めて便利」と、機能性と使いやすさが評価されています 。

matsukiyo アイススラリー

ドラッグストア「マツモトキヨシ」のプライベートブランドです(販売者はリブ・ラボラトリーズ)。
スパウト付パウチ形態で内容量は120g。爽やかなグレープフルーツ味で、クエン酸や電解質を配合し、暑熱対策の基本を押さえています 。口コミでは「すっきりした味わいで夏にぴったり」「シャリシャリ食感で飲むと涼しくなる」と、その味と冷却感が高評価 。日常的な暑さ対策として常備しやすいと好評です 。

アイススラリー 飲むタイミング

内部冷却ニーズを背景にSNSでは「いつ、どれくらい飲めばよいのか」という疑問の声がでているようです。胃腸への負担を避けるためには、一度に大量に摂るのではなく、少量をこまめに摂取することが大切です。運動中や短い休憩(ハーフタイムなど)での摂取はもちろん、プレクーリングの一環として運動前や作業前に摂取して深部体温の上昇を抑えることをねらう方法も用いられています。
また、2025年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行され、職場での熱中症対策が義務化されたことを受けて、作業前の「プレクーリング」にも関心が高まっています。

商品化の勘所:口当たり、風味、容器、そして「現場第一主義」

ここからは商品開発やOEMの視点でアイススラリーの開発要点を整理します。

まず重視したいのは口当たりです。氷相率や粒径は飲みやすさに直結します。家庭用冷凍後での緩慢凍結や手で揉んで崩しやすい設計にするため増粘多糖類やBrix調整などの物性コントロールが重要です。
次に栄養設計や容量です。過剰な糖分・塩分を避けつつ、ターゲットと用途に合うバランスを見極めることが重要です。容器と容量は携帯性や利用シーンを左右します。シーンによっては500ml相当の使い分けも考えられますが、利用シーンを考えると100g-120g程度の飲み切りサイズが市場では一般的となります。

アイススラリーは、常温流通→小売や家庭・現場での凍結が主体になります。この「常温で配り、飲む前に家庭や現場で凍らせる」という設計は流通面や保管面でも重要な製品特性です。
凍結後に数分間置いてからもみほぐして飲む設計が一般的ですが、この時間についても利用シーンに適した考慮が必要でしょう。いずれにせよ、誰が・いつ・どこで・どう飲むかという運用設計と不可分であり、「アイススラリー 飲むタイミング」の考え方と一体した検討が必要です。
開発においては、機を逃さすスムーズに上市するため知見を持っている開発機関やOEM先と情報交換しながら開発することをおすすめします。

まとめ:暑熱対策に内部冷却という選択肢を

アイススラリーは、暑熱環境下における冷却手段の一つとして、日本の現場とスポーツを起点に広がりを見せています。重要なのは、手軽で効率的な内部冷却と口当たりや風味などの食品としての設計(氷相率・粒径/Brix/容器・容量など)です。
年々過酷になる日本の夏に向けた対策は、「不足を補う水分・塩分補給」が浸透し、ハンディファンやファン付き作業服など「外部冷却」のイノベーションが進化してきました。現在は、その流れの先にあるアイススラリーによる「内部冷却」に関心が高まっています。

参考情報
1)厚生労働省 労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について (令7.5.20基発0520第6号)
https://jsite.mhlw.go.jp/toyama-roudoukyoku/content/contents/002247729.pdf
2) 大塚製薬 ポカリスエット アイススラリー
https://pocarisweat.jp/products/iceslurry/
3)大正製薬 リポビタンアイススラリー Sports
https://brand.taisho.co.jp/lipovitan/iceslurry/
4)マツキヨココカラ pickup新商品
https://www.matsukiyococokara-online.com/matsukiyo/pickup/250630_iceslurry

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