出汁といえば和食にはかかせないもので、昆布、鰹節、煮干しなどの食材が代表的です。和食の美味しさの要となる出汁の魅力について、改めて考えてみたいと思います。
出汁といえば、和食にはかかせないものです。代表的な出汁の食材としては、昆布、鰹節、煮干しなどがあります。最近は、だし調味料を使って手軽に調理することも多いようですが、伝統的な素材によって生み出される本物の出汁の味わいは、奥が深く、何よりも体に優しく和食ならではの本当のおいしさを生み出す味のかなめとなるものでもあります。そうした出汁の魅力について、あらためて考えてみたいと思います。
出汁の語源は、「出」という文字を含んでいるとおり、素材を煮出すことに由来しており、古くは“煮出汁”(にだしじる)と呼ばれていたようです。それが“煮出し”(にだし)、“出汁”(だしじる)となり、やがて「ダシ」と呼ばれることが多くなりました。代表的な出汁である昆布のうまみ成分は、アミノ酸系のグルタミン酸。そして、鰹節は、核酸系のイノシン酸です。個性の違う各々の旨味が、料理のおいしさをさらに拡げてくれるのです。
北海道と西日本を結ぶ物資輸送の基幹インフラとして大きな力を発揮した北前船によって、昆布は、加賀藩や関西、さらには江戸をはじめ全国にもたらされ、加賀料理や関西割烹などを中心に、なくてはならないものとして活用され、発展してきました。そして、鰹節もまた、産地である鹿児島や高知、焼津などから関西や江戸に船で運ばれ全国に広まりました。鰹節は、堅い魚、つまり「堅魚」(かつお)が語源とも言われています。茹でて乾燥させ燻した<荒節>や、さらに何ケ月もじっくり寝かせて表面にかびを付け、イノシン酸がさらに増した固い<本枯れ節>など独特の旨味を誇っています。
料理人の間では、出汁を「引く」という言い方をすることがあります。これは、無理やり煮出したり絞ったりせずに、自然にうまみを「引き出す」ということから言われているそうです。
例えば、昆布のうまみであるグルタミン酸は、野菜やきのこなどと相性が良く、素材の味を引き立たせる力があります。そして、魚介系の出汁である鰹節のイノシン酸は、肉や魚とも相性の良い出汁が取れます。また、この両方を組み合わせれば、さらに深い味わいを醸し出してくれます。煮干しは、日本中の海で獲れるイワシを使った出汁として、全国各地で幅広く使われてきました。イワシが比較的手に入りやすい日常的な素材だったためか、味噌汁の出汁を中心に麺類の出汁などにも使われています。ちなみに、いりこと煮干しはどちらも同じものですが、日本の西のエリアでは、いりこと呼ばれています。このほかにも、トビウオを使ったアゴと呼ばれる出汁も瀬戸内海や九州などを中心に広く使われていますが、イワシとはまた違った風味を持つものとして、味噌汁から煮物やうどん出汁、雑煮など地域色を活かした郷土料理にもかかせない存在となっています。
100年ほど前、それまでは、甘味、酸味、塩味、苦味、という4つとされていた基本の味に、「うま味」という新たな味の世界を発見し定義づけたのは、実は日本人なのです。この「うま味」という味わいを、出汁を基本として確立したのは、日本人ならではの素材に対する愛情と、世界に冠たる独特の味覚文化です。例えばフランス料理にも、子牛の肉と骨から取るフォン・ドゥ・ヴォーや、魚から取るフュメ・ド・ポワソンなどのダシに相当するものがあります。時間をかけてじっくりと煮込み、料理のベースとして使われるダシのようなスープです。これに対し日本の出汁は、前日に水につけておいたりするものもありますが、いずれも比較的簡単に水から煮出すものが中心となっています。こうした日本の出汁の魅力は、日本食の世界的な普及に伴い、フレンチの有名シェフたちにも、訳さずにそのまま「ダシ」という言葉として受け入れられ、ジュレやソースなどの新たな素材として活用するなど積極的に取り入れられています。
さらに、老舗の鰹節メーカーは、数年前に『日本橋だし場(NIHONBASHI DASHI BAR)』と銘打って、銘酒を楽しむバーの様に本物の出汁の味を気軽に楽しんでもらおうというユニークなスポットを作りましたが、現在も人気を博しています。これも、出汁に対する志向が、単なる一時的な流行りではないことを表しています。
今や日本だけでなく、世界中で庶民的な日本食の代表となったラーメンは、鶏ガラや豚骨など、様々なスープを生み出してきました。そして近年トレンドとなっているのが、昆布や鰹節、サバ節、煮干しなど魚介系の出汁を活かしたラーメンです。豚骨や鶏ガラなど動物系スープと組み合わせることで、より複雑で深い味わいを生み出すスープとして支持を集めているのです。
割烹料理のかなめとして、日本食文化を支えてきた一方、庶民の暮らしに溶け込み味噌汁から煮物、雑煮、そして様々な麺類のだし汁まで幅広く活用されてきた日本の出汁。
丹念にダシを取り、それに酒や醤油、塩、みりん、など様々な調味料を組み合わせて独自の味を生み出す創造力。カツオを燻し乾かすことで、より新しい味が生まれることを開発する探究心。海から昆布を取り、それを天日に干すことでさらにうまみが増すことを見い出す観察力。そして水に浸すことによって、そこからさらに豊かな味の世界を引き出すという発想力・・・。そこには、自然素材とじっくり向き合い、丹念に分析し研究を積み重ねていく日本人ならではの、まじめで粘り強い国民性、文化性が感じられます。
昆布、鰹節、煮干しなど、日本の食文化の長い歴史の中で、欠かすことのできない出汁。そこには、日本人独特の美学と文化、自然や食材と向き合い、その魅力を最大限に引き出そうとする日本人ならではの知恵と発想力が感じられます。和食の味を決める大きな基盤となっている出汁は、今やフランス料理のシェフにも「ダシ」というそのままの言葉で理解されるようになり、フレンチのメニューにもどんどん取り入れられています。味噌汁から、うどんやそばの汁、雑煮、煮物、そしてサラダや和え物まで、様々な味のかなめとして使われ続けている出汁の魅力は、日本人、そして世界中の人々に愛され、これからも大切に育まれていくことでしょう。
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