今年(2019年)2月1日に発効した日本と欧州連合(EU)のEPA(経済連携協定)。ワインとチーズなどの乳製品の関税が引き下げられました。スーパーのセール告知などを見た人も多いことでしょう。発効から4カ月、何が変わったのか、これからどうなっていくのか……。飲食業界での声を取り上げながら占ってみたいと思います。
まず問題です。日本にとって「最大のワイン輸入相手国」はどこでしょう?
――実はこの問題、「量」か「金額」か、どちらを基準にするかで答えが変わります。
金額で言えば、フランス、イタリアが1,2位を占めるのですが「量」で見ると、チリがいっきにトップに踊り出るのです(2015年以降)。チリは生産量ランキングでは世界5位で、首位のイタリアの半分にも満たず、日本への輸入も金額ベースではフランスの4分の1に過ぎません。そのチリが、量ではトップ。いかにチリワインが「安い」かがわかります。
けれども決して「安かろう悪かろう」ではありません。南北に極端に長い国土を持つチリは、緯度に合わせてさまざまな品種のブドウが栽培されていることで有名。それぞれ高品質なワインがリーズナブルな価格で楽しめると幅広く支持されているのです。
低価格にはもう一つ理由があります。輸入関税の低さです。2007年に締結された日本とチリ独自のEPAによって、チリワインの関税は毎年引き下げられ、現在ではゼロになっているのです。
そう考えると、現在高価であるヨーロッパのワインの関税(15%)がEPAで劇的に下がることは、ワイン愛好家に大きな朗報に違いありません。現に新橋のイタリアン『M』の女性マネージャーに「日欧EPAで何か変わりましたか?」と聞いたところ「とてもいい効果が表れています。仕入れ値が下がり、お客様にこれまでより一段上のワインをご提案できるようになりました。より広い選択肢を楽しんでいただけるのは店としても嬉しいですね」と語ってくれました。
ではチーズはどうでしょう。実はこれにも「先行指標」があります。それはスイスです。スイスはヨーロッパの真中にありながら、「非同盟中立」の国是でEUにも加盟していません。そのスイスから日本が輸入している最大の農産物といえば、乳製品です。とくに、ハードタイプのチーズ。「アルプスの少女 ハイジ」でハイジがストーブでチーズを温めて食べるシーンの、あのチーズです。エメンタールとも呼ばれるこのチーズ、チーズフォンデュには欠かせません。
実は日本は世界一のチーズ輸入国。スイスからも年間600トンを輸入しています。2009年に日本とスイスはEPAではナチュラルチーズの関税を半減しているのです。これが後押しになっているのは間違いありません。逆に言えば、今回の日欧EPAで関税が完全撤廃されるならば、スイスの農産業界が「EUに日本市場を奪われる」と危機感を募らせるのも無理はありません。
それでも、専門家の見方は少し違うようです。新宿・曙橋のホテル内にあるチーズフォンデュが売りのレストラン『シェ・マシオ』。支配人の南俊輔さんは「ワインのお供としてのチーズはイタリア産、フランス産などいろいろ出していますが、フォンデュにはやはりスイスのエメンタールチーズ。ここはこだわります」と語ります。こういうお店が多ければ、EUとのEPAは、素材別・産地別にチーズを楽しむ習慣がさらに広がることにつながるとも言えそうです。
さてちょっと目を転じて、日欧のEPAに刺激されるように加速している外の貿易交渉を見てみましょう。例えば、食肉はどうなるでしょうか。代表的な牛肉(ビーフ)、日本の輸入量ではオーストラリアが50%を超え、断トツの1位。2位がアメリカ、3位にニュージーランド、4位がカナダ。アメリカを除く3か国がTPP11の加盟国なのです。ではTPP11が発効するとこちらも急激に輸入量が増えるでしょうか。
そうはならないのでは、という見方が有力です。それは、オーストラリアやニュージーランドからのビーフの輸入関税は、すでに個別のFTA(自由貿易協定)で低く抑えられているからです。むしろ、TPPの枠組を抜けながら、日本には農産物の関税引き下げを強く要求しているアメリカのほうが要注目かもしれません。現在38.5%と高いアメリカ牛の関税がトランプ大統領の要求する通り「TPPを上回る有利な条件」に引き下げられるなら、街中のステーキ屋さんが掲げる国旗も様変わりするかもしれません。
ところでアメリカから日本は、大豆も大量に輸入しています。こちらに現れそうな変化については、次の機会に考えてみたいと思います。
いずれにしても、今後数年の日本と各国の貿易交渉には、私たちの食生活に大きな影響を及ぼすものして目が離せなくなりそうです。
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