精密発酵とは食品そのものを作る訳ではなく、微生物を使って特定の機能性成分を生成させる技術です。微生物に作りたい成分の遺伝子を挿入して発酵させると、微生物が小さな工場となり、特定のたんぱく質や酵素、フレーバー分子、ビタミン、色素、脂肪を生み出します。例えば、精密発酵によって代替たんぱく質を製造するアメリカのPerfect Day社は、乳たんぱく質の遺伝子情報を微生物に与え、水、栄養素、糖分を加えた発酵タンクの中に入れて発酵させることで、乳牛を使うことなく乳たんぱく質を作り出しています。^1,2

精密発酵で代替たんぱく質を作るメリットは、本来のたんぱく質と遺伝的に同一であるため、味、食感、栄養も同一の性質を持つたんぱく質が生成されるという点です。また、精密発酵由来の代替たんぱく質は、従来の動物性たんぱく質と比較すると、土地や水といった資源の使用量が少なくサステナブルであるという点もメリットになります。³

精密発酵はアメリカとイスラエルを中心に開発が加速しています。
前述のとおり、アメリカのPerfect Day社は乳牛を一切使わずに乳たんぱく質を製造するスタートアップ企業です。同社の乳タンパク質は、コレステロール、グルテン、ラクトース、ホルモン剤、抗生物質を含有しないことが特徴です。一方で、精密発酵で作られたとは言え本物の乳タンパク質であるため、商品に牛乳アレルギーについての注意書きがされています。すでにアメリカ国内ではPerfect Day社の乳たんぱく質を使用したアイスクリームやクリームチーズなどが販売されています。⁴

アメリカのThe Every Company社は精密発酵によって卵たんぱく質を製造するスタートアップ企業です。2020年には原料メーカーと共同で動物性原料を使用しないペプシンを開発、発売し、2021年には世界初となる鶏を一切使用しない卵たんぱく質の販売を開始しました。これまでに、コールドプレスジュース専門店のPressedと提携し、卵たんぱく質を使ったスムージーを期間限定で販売した実績もあります。また、2022年には世界で初めて精密発酵によって製造された卵白を商品化し、カリフォルニアの有名パティスリーChantal Guillonと共同で、動物性原料を使用しないマカロンの販売を開始しています。^5,6

Remilk社は、精密発酵による代替乳たんぱく質の開発を手掛けるイスラエルの企業です。同社は2022年4月に、デンマークに75万平方フィート以上に及ぶ、世界最大規模の精密発酵工場を建設することを発表しています。また6月には、アメリカFDAよりGRAS自己認証を取得したため、今後アメリカ国内で同社のたんぱく質を使用して、アイスクリームやヨーグルト、クリームチーズなどの代替乳製品の製造、販売が可能になります。^7,8

アメリカでは、精密発酵による代替たんぱく質を使った食品の販売がすでに認められています。

Perfect Day社の子会社であるThe Urgent Company社は、精密発酵由来の乳たんぱく質を使った商品を３つのブランドから販売しています。アイスクリームブランドのBrave Robot、クリームチーズブランドのModern Kitchen、プロテインパウダーブランドのCalifornia Performance Co.です。

Brave Robotは、従来のアイスクリームと同様の食感と風味を実現している点が特徴です。すでにKrogerなどアメリカで全国展開する大手スーパーで販売されている実績があります。

Modern Kitchenのクリームチーズは、ストロベリー、ハリッサペッパー（唐辛子ペースト）、スプリングオニオン+チャイブ（ネギ）、の3種類のフレーバーで展開されています。1食分（28g）あたり80kcalで、カロリーは従来のクリームチーズと大きく変わりません。

また、Californica Performance Co.のプロテインパウダーは、1食分（32g）あたり23gのたんぱく質、5gの必須アミノ酸BCAAを含む商品となっています。精密発酵由来の乳たんぱく質は、本来の乳たんぱく質と生物学的には同等であるため、植物由来のプロテインパウダーと比べてたんぱく質の含有量が多い、と同ブランドは特徴を述べています。

他にも精密発酵由来の乳たんぱく質を使った商品を手掛ける企業があります。Betterland Foods社は、2022年夏から、Perfect Day社の乳たんぱく質を使った牛乳の販売を開始します。この牛乳に含まれるたんぱく質とビタミンは、従来の牛乳と同等ですが、糖分は67%少なくなっています。そしてMCTとひまわり油のみが含まれ、乳糖、コレステロール、ホルモンは含んでいません。他の植物性ミルクよりもクリーミーかつ濃厚な味わいで、機能面では牛乳と同様に調理や製菓に使える点も大きな特徴です。またBetterland Foods社は精密発酵由来の乳たんぱく質を使ったチョコレバーも販売しています。

精密発酵で作られた代替たんぱく質を用いて食品を製造・販売することは、海外で実施されている新しい取組みです。代替たんぱく質が世界的に大きなトレンドとなる中、精密発酵由来のたんぱく質を使った食品がどこまで広がりをみせるのか、今後の展開が注目を集めています。

【参考文献】
¹https://gfi.org/fermentation/
²https://perfectday.com/process/
³https://www.foodnavigator.com/Article/2022/03/16/Industry-insights-from-NIZO-Precision-fermentation-Making-the-case-for-animal-protein-without-the-animal#
⁴https://perfectday.com/
⁵https://www.foodnavigator-usa.com/Article/2021/12/07/The-EVERY-Company-raises-175m-to-expand-animal-free-protein-platform
⁶https://www.foodnavigator-usa.com/Article/2022/03/23/The-EVERY-Co-unveils-world-s-first-animal-free-egg-white-road-tested-in-holy-grail-application-the-macaron
⁷https://www.prnewswire.com/il/news-releases/remilk-to-build-the-worlds-largest-precision-fermentation-facility-301533113.html
⁸https://www.foodingredientsfirst.com/news/fda-greenlights-remilks-proteins-paving-way-for-non-animal-real-dairy-products-in-us.html