もし調味料の開発を考えている場合、有用な素材の一つに、調味料の物性を創ることのできる増粘多糖類があります。この増粘多糖類について、6つの機能と共に、活用例をご紹介します。
目次
食品のおいしさを決める要因には、様々なものがあります。まずは、その要因の構成要素を確認しておきましょう。
●生理的要因:年齢、健康状態、空腹度
●心理的要因:喜怒哀楽の感情、不安・緊張
●観念的要因:宗教観、伝聞により刷り込まれた認識
●食物自体の特性
・化学的要因:甘味・酸味・塩味・苦味・旨味・辛味・渋味
・物理的要因:テクスチャー、温度、外観
出典:西成、中沢、勝田、戸田編著「新食感事典」(サイエンスフォーラム、1999)
人間には生理的な側面から、感情、観念があります。また食物自体が持つ特性である、味や食感(テクスチャー)、外観などもおいしさを決める大きな要因です。この中でも、「食感(テクスチャー)」は食品のおいしさを支配する属性が非常に高いといわれています。
現在、すでに食品に行われている、価格やブランド、コンプセプト、味などの差別点に食感をかけ合わせることで、より差別化された商品を生み出すことができると考えられます。そして食感を工夫することで、新たな嗜好をもつ消費者を取りこめる可能性もあります。
この食感を左右する食品の物性を創ることができるのが増粘多糖類です。調味料開発において、この増粘多糖類が物性創りに有用です。
増粘多糖類には主にゲル化・増粘、タンパクの安定化、乳化による気泡形成、ネットワーク形成、保水、被膜形成の6つの機能があります。これらの6つの機能をうまく活用することで、差別化された調味料を作ることができます。
増粘多糖類の立体的な編み目構造が変化することによって、固まったり、粘度が出たりするようになります。巨大な高分子同士が「結合ゾーン」と呼ばれる領域で結合し、ゲルになります。液体中で巨大分子同士が結合できない場合、増粘として働きます。これによりゲル状、もしくは増粘性のある調味料の物性を創ることができます。
タンパク粒子は酸性下で凝集・沈殿しますが、増粘多糖類にはそれを防止する効果があるものがあります。増粘多糖類のマイナス部分が、タンパク粒子のプラス部分と反応してたんぱく表面を覆い、タンパク粒子同士が凝集するのを防ぎます。これにより調味料においては濃厚ソースなどを作ることができます。
一部の増粘多糖類は親水基と親油基を持つため、エマルション、つまり乳濁液を作ることができます。気泡形成により、調味料においては独特の食感や液だれしない物性を創ることができます。
増粘多糖類は単体、もしくは相乗効果によりネットワークを形成する機能があります。ネットワーク構造によって固形物を分散させることができます。これにより、調味料においては脂肪感のある物性を創ることができます。
増粘多糖類は一般的に親水基を多く持った構造であり、水を抱え込むため保水性があります。これにより、じっくり煮込んだかのような素材のやわらかさを実現できる調味料を創ることができます。
一部の増粘多糖類には疎水性のペプチドが結合されており、疎水部分を油脂中に、親水性部分を水中に存在させることで被膜を作ることができます。これにより、調味料においては麺類などがほぐれやすく、ねとつかないという物性を創ることができます。
ゲル化・増粘の機能を利用したソースです。保形性が高く、皿の上でしっかり保形して流れ出ないことから、簡単にお皿におしゃれに描けるソースになります。従来のソースの「かける、つける」にこの物性を追加することで「お絵描きする」というコンセプトが追加されます。これを実現するには、素材に染み込まない、経時的にダレない、書いた文字が滲まないなどの物性が必要です。
■実現方法
キサンタンガム+タラガムの相乗効果を活用して、適度な保形性でお絵描きソースに求められる物性を創ります。キサンタンガム:タラガム=1:1の割合で併用することで、皿の上で保形して流れないお絵描きソースができます。
こちらもゲル化・増粘の機能を利用したもので、マンゴーピューレの甘味と味噌の塩味をかけ合わせ、マヨネーズやヨーグルトに和える調味料の素として活用できる「フルーツ味噌」になります。これを実現するには、うまくフルーツ本来の味を引き立たせる食感と、マヨネーズなどに合わせたときに混ぜやすく、再セット性のある物性が求められます。
■実現方法
フルーツとの相性がよく再セット性があるLMペクチンを利用し、カルシウムと併用することでゲル化させます。適切なスピードで反応させることで均一なゲルになります。ペクチンの種類を変えることで、食感を自由自在に創り出すことができます。
タンパクの安定化機能を利用すれば、豆乳とソースをかけ合わせることで、健食訴求を行いつつ、たっぷり食べる・飲むといったコンセプトの「サワーSOYミルク」を作ることができます。これを実現するには大豆タンパクの安定化が必須になります。
■実現方法
乳タンパク安定効果のあるHMペクチンを利用することで、タンパクの分離を防いで安定化され、適度な粘度が付与され、分離・凝集を防ぐことができます。実例として、フランスの乳がたっぷり入った濃厚な、Elle&Vire社のパウチ入り生クリームソースがあります。
気泡形成の機能により「泡を楽しむ」という驚きを付加価値にできる「泡を楽しむ調味料」を作ることができます。高級レストラン・外食において利用できるでしょう。また温かい状態でディップして食べる、とびちらない調味料という特徴もあります。これを実現するには、加熱時も泡を保持し、何につけてもダレない物性、口溶けを楽しめる物性などが必要です。
■実現方法
気泡安定、気泡保持効果のある増粘多糖類の組み合わせを利用することで、熱ゲル化、乳化安定化による高い保形力が叶う、温めてもムース状を保持できる物性を創り出すことが可能です。熱に強く、レトルト殺菌後も泡が保持され、口当たりがよく高級感のあるタプナードができます。
また同じく気泡安定、気泡保持効果のあるメトセルTMを利用すると熱ゲル化、粘度付与、乳化安定による高い保形力が叶い、泡を楽しむ泡醤油を作ることができます。
ネットワーク形成の機能を利用した、本物の脂肪食感を実現したオフ調味料「低脂肪マヨネーズ」を作ることができます。実現するには、脂肪感の付与が必要です。
■実現方法
ねとつかない濃厚感をだす増粘多糖類を利用することで、脂肪食感が付加され、口どけが良いマヨネーズができます。本物の脂肪と遜色ない低カロリーソースが実現します。
保水機能を利用することで、本格志向・手軽のニーズを満たした調味料として、じっくり煮込んだかのような具材の柔らかさのある肉や魚などを自宅で簡単に実現する「“柔らかジューシー”揉みダレ」ができあがります。実現するには短時間で具材を柔らかくする物性が必要です。
■実現方法
増粘多糖類の保水効果利用することで、味つけの漬け込みだけで簡単にお肉が柔らかくジューシーになります。軟化剤が肉繊維に入り込むと、pHを高めて繊維間を広げ、液が入り込みやすくなり、増粘剤が保水を補助します。
被膜形成の機能を利用することで、CVS(コンビニエンスストア)や宅食商品向け商品に適した「経時的な麺付着を抑制するソース」を作ることができます。つまり、麺のほぐれをよくし、保存後のおいしさが維持できるものです。これを実現するには、ほぐれやすさやソースがネトつかないといった物性が必要になります。
■実現方法
増粘剤特有の粘度がなく、チルド保存でもほぐれが良好な増粘多糖類を利用すると実現できます。増粘多糖類が麺と麺の間に入り込んで緩衝するほか、油の界面活性を下げる効果があることから油が広がり、麺同士の接着が抑えられます。さらに照り・つやの向上、粘度が出ない、味に影響がないというメリットも得られます。
いかがでしたでしょうか。調味料に増粘多糖類を利用する方法と共に、機能などをご紹介してきました。うまく活用することで、付加価値をもたらし差別化にも役立つ可能性があります。ぜひ調味料などの商品開発のヒントにされてみてください。
*今回ご紹介した増粘多糖類の詳細についてはお問い合わせください。
今注目を集めている食品トレンド情報や
食品開発に関する資料を
無料でご提供しています。
是非この機会にご覧ください。
ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、
カラギナンなど
ハイドロコロイドに
ついて徹底解説。
ハイドロコロイドの概要から、
各種の特徴を全75ページにわたって
徹底に解説しています。
是非ご覧ください。
食品の企画・開発に関わる人のための専門メディア「食品開発ラボ」は、ユニテックフーズ株式会社が運営しています。
当社では創業以来独自の素材・製品で新しい食品の価値を創造することをコンセプトに、ペクチンをはじめとするハイドロコロイドの研究や素材を組み合わせたこれまでにない特性を持つ製品の開発、加えてお客様のご要望に応じた当社製品を実際の食品に用いた利用・応用技術の開発を行っています。
商品企画・開発において何かお困りごとがあれば、きっと当社がお役に立てると思います。
是非お気軽にお問い合わせください。