増粘多糖類を使用した製品開発において、加熱殺菌後に「粘度が低い」「ゲル強度が弱い」といった経験はないでしょうか。加熱によって増粘多糖類の力価が低下してしまっているかもしれません。増粘多糖類の力価が低下する原因として以下の例が挙げられます。
増粘多糖類は単糖がグリコシド結合によって脱水縮合したポリマーです。このグリコシド結合が分解されることで力価が低下します。分解の程度は増粘多糖類の種類によって様々であり、基本的に低いpH条件で加熱されることにより分解されますが、中には中性以上のpHであっても分解されてしまうものもあります。
2重らせん構造をとる増粘多糖類の中には温度上昇に伴ってらせん構造がほぐれ、ランダムコイルをとるものがあります。温度が低下すると再び2重らせん構造を形成しますが、この際に同一分子内で再形成するとヘアピンのように折れ曲がった構造となります。元の分子の半分の長さになりますので見かけ上、分子サイズが小さくなります。
力価の指標は、粘度やゲル強度がよく用いられます。
粘度は、溶媒に溶けた増粘多糖類の分子間や水分子との衝突・摩擦によって生じます。分解や分子内会合等により分子鎖同士の衝突・摩擦する頻度が減ると粘度は低下します。
またゲル化は分子鎖間のネットワーク構造により形成されるので、分解や分子内会合等が生じることによってゲル強度は低下します。
このように、増粘多糖類は加熱によりさまざまな影響を受けます。その要因の一つとして、「増粘多糖類の構造」があります。加熱によりどの増粘多糖類にどのような影響が現れるのか、それを避けるにはどうしたらよいのでしょうか。本コラムでは、その点についてご説明したいと思います。
ジェランガム、ウェランガム、メチルセルロースなど
ジェランガムやウェランガムは水素結合によって強固な2重らせん構造を形成するため、分解が生じ難くなっています。また、メチルセルロースは分子内で水素結合を形成し強固な結晶構造を取るため、分解が生じ難いと考えられています。
キサンタンガム
キサンタンガムは嵩高い側鎖がグリコシド結合を保護するように配置されているため、分解が生じ難くなっています。ただし希薄濃度で使用した場合は加熱による分子内会合によって見かけ上の分子サイズが小さくなるため、粘度が低下することがあります。
ローカストビーンガム、タラガム、グァーガムなど
上記のガラクトマンナン類は、加熱による影響を受ける場合があります。こちらに加熱処理(120℃ 40分)後の粘度の残存率のデータを示しました。ローカストビーンガムとタラガムでは同程度の耐熱性を持ち、グァーガムはそれよりも耐熱性が弱いことが分かります。そのため、添加量を上げる等の対処が必要です。
ペクチン
ペクチンは酸性域の加熱に対して比較的安定性があると言われています。しかしながら、エステル化度の高いHMペクチンは中性以上のpHで加熱することによってβ脱離と呼ばれる分解反応が促進されます。ペクチンの至適pHについては、 こちらの記事をご参照ください。
カラギナン
カラギナンは中性域で安定している多糖類です。pH 6以上では130℃まで加熱してもゲル強度はあまり損なわれません。1)一方酸性域では酸によりグリコシド結合が切断されるため、力価が低下する場合があります。こちらに異なるpH値のκ-カラギナン溶液を75℃で加熱したときの経時的な分子量の変化を示しました。pHが低くなるほど分子量低下に要する時間が短くなることが分かります。分子量の低下はゲル強度の低下を引き起こします。したがって酸性域でカラギナンを使用したゼリーを作製する場合、充填初期と後期ではゲル強度が異なるといった問題が発生する可能性があります。そのため、酸性域でカラギナンを使用する場合は高温域の曝露時間に注意が必要です。
寒天
寒天はカラギナンと類似した構造を持っています。したがってカラギナン同様、酸性域の加熱で力価が低下するためpHと加熱条件には注意が必要です。
ゼラチン
タンパク質であるゼラチンは、高温域で変性や分解が生じる場合があります。低pHや高pHで長時間加熱したり、変性温度以上で加熱したりしないように注意が必要です。
加熱による増粘多糖類の力価低下は、加熱時間やpHだけでなく、共存する塩類などの影響も受けるため、要因を一概に決めることはできません。お困りごとなどありましたら、ぜひ弊社までお気軽にご相談ください。
参考文献
國崎直道「食品多糖類」、2001.
Handbook of Hydrocolloids (Second edition), 2009.
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ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、
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