カードランとは、土壌菌Agrobacterium biovar Ⅰが産生する微生物由来の増粘多糖類で、メチルセルロースのように加熱により固まるというユニークな性質を持ち、様々な食品に使用されています。下図のようなグルコースがβ-1,3グリコシド結合した構造を持ち、水やアルコールには不溶ですが、アルカリ性溶液には可溶です。
メチルセルロースと同じく加熱によりゲル化するカードランですが、性質やゲル化条件、ゲルの物性は異なります。
カードランは加熱する温度により、ハイセットゲル、ローセットゲル、という性質の異なる2種類のゲルを形成します。下に模式図を示しました。80℃以上に加熱すると硬い弾力のあるハイセットゲルを形成する一方、約60~80℃に加熱し40℃以下に冷却すると寒天やカッパカラギナンに近い物性を持つローセットゲルを形成します。
ハイセットゲルは熱不可逆性で、加熱温度の上昇に伴いゲル強度は向上します。テクスチャーは寒天のような硬くもろいゲルと、ゼラチンのような弾力のあるゲルの中間的性質を持ちます。一方ローセットゲルは熱可逆性で、再び加熱すると溶解します。ゲルは離水が多く、特にチルド帯において離水量は増える傾向があります。離水の対策としては、pHを酸性に保つことや、加工デンプンとの併用などが有効とされています。
加熱してゲル化することが知られているカードランですが、非加熱でもゲルを形成します。一つは「中和ゲル」と呼ばれるゲルで、カードランが溶解したアルカリ性溶液を中和することでゲル化します。また、カードランが溶解したアルカリ性溶液にカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどのカチオンを添加すると、解離した水酸基とカチオンの架橋により「架橋ゲル」を形成することができます。
中性多糖類であるカードランはpH 3~10の広い範囲でゲルを形成します。特にpH 2~4でゲル強度が若干高くなることが知られています。テクスチャーについては、酸性域では硬くもろいゲルを形成するのに対し、アルカリ域ではやわらかく弾力のあるゲルを形成します。
カードランは冷凍耐性に優れており、冷凍解凍を繰り返してもゲルの物性がほとんど変わりません。
カードランゲルは、溶媒中の食塩濃度やショ糖濃度が上昇するにつれて破断強度が減少します。これは、1)溶媒中の自由水が食塩やショ糖に奪われてカードランが膨潤するのに必要な水が減ること、2)ショ糖分子がカードラン分子の疎水基間の相互作用を阻害することが原因だと考えられています。
カードランは以下のような食品に応用されています。
カードランを使用する際、品質改良目的で少量添加する場合は、粉末添加が可能です。しかしカードランを主体とした食品を作製する場合は、カードランの水分散液を調整し使用する必要があります。また、粉末添加よりも、アルカリ性溶液でカードランを溶解した後に食品へ添加した方が、カードランの分子鎖が開くことで、より高い効果(品質改良効果やゲル強度等)を期待できます。
カードランは上記食品だけでなく、弾力性付与を目的としてプラントベースフードの素材としても注目されています。ぜひ商品開発にお役立てください。
参考文献
國崎直道「食品多糖類」、2001年。
中尾行宏「カードランの性質と食品への利用」、日本食品工業学会誌、1991年。
食品化学新聞社「フードケミカル 2020年9月号」、pp 97-99、2020年。
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