2025年は大西宇宙飛行士が3月に宇宙に向かい日本人として3人目のISS船長に任命されました。また、クルードラゴン宇宙船11号に油井宇宙飛行士の搭乗も決定しました。2025年は日本人宇宙飛行士の宇宙での活躍が大いに期待されます。では、日本人宇宙飛行士が宇宙で活躍するためにどのような食事を摂っているのでしょうか。宇宙食のおいしさやおいしさを実現している技術について日本独自の認証規格である宇宙日本食の面からご紹介します。
宇宙食とは国際宇宙ステーション(ISS)などで宇宙に滞在する宇宙飛行士に提供するための食品です1)。宇宙食には厳しい基準が設けられています。例えば、栄養価の確保、高度な衛生管理、限られた調理器具でもおいしく食べられること、粉末や液体が飛び散らないことなどが求められます。さらに、JAXAが食品メーカー等から提案された食品を宇宙食として認証することで「宇宙日本食」として宇宙飛行士に提供されます。宇宙日本食は宇宙での長期滞在でも日本の味を楽しんでもらい、精神的なストレスをやわらげ仕事の効率をはかることを期待して作られました。
有人宇宙飛行が始まって以来宇宙開発の発展とともに宇宙食も進化してきました。初期の宇宙食はペースト状で離乳食のようなものと言われています。現在ではNASAが提供する標準食が300種類以上2)、JAXAによって認証された宇宙日本食は53種類3)も存在します。今回は、日本独自の認証規格、宇宙日本食について紹介します。
宇宙食は主に5つの食品に分類されます4)。
・加水食品;水やお湯を加えることで戻して食べる食品(フリーズドライ食品、スプレードライ食品)
・温度安定食品;レトルト食品や缶詰食品(ステーキ、ツナ、果物、プリン)
・自然形態食品・半乾燥食品;そのまま食べられる加工食品(ナッツ、キャンディー、ドライフルーツ)
・調味料;食品に味をつけるための調味料(塩、コショウ、ケチャップ、マヨネーズなど)
・放射線照射食品;放射線により殺菌を行った食品(ビーフステーキなど)
53種類もある宇宙日本食からJAXA認証の宇宙食を取り扱い販売しているサイトから商品をいくつかピックアップし紹介いたします5) 。
加水食品の一つです。水またはお湯を加えることで食べることができるアルファ米の白飯です。低アミロースのお米を使用することで、ご飯の食味とふんわりとした食感を確保しています。これにより、味覚の変化がある無重力空間でもおいしく食べられる工夫が施されています。
「食べた感想一言」
熱湯に入れて15分待つと完成です。開けた瞬間、炊いたご飯の香りが漂いました。味は特に臭みや気になるところもなくおいしくもちもちした白米でした。
宇宙空間では骨が弱くなってしまう傾向があります。この食品ではカルシウムの強化、とビタミンDとイソフラボンの添加により弱くなってしまう骨の予防ができます。また、宇宙放射線による細胞の酸化を抑えるためウコンが増量されています。無重力化では味覚が鈍くなるため、はっきりとした濃い目の味つけとなっています。
「食べた感想一言」
宇宙では電子レンジが使用できないため、湯煎でのみ温め可能でした。宇宙食と言われなければわからないほどいつも食べているレトルトカレーと同じくらいおいしいです。少しスパイシーでキノコのシャキシャキ感がよりおいしさを引き立てるカレーでした。
煉り羊羹は元来保存性の良い食品です。伝統の技と新たな技術開発に加え、原料の品質、煉り条件(温度時間)、充填条件などの厳格な管理を行い、1年間の長期保存を可能としています。これはその内の栗羊羹です。
「食べた感想一言」
内容量62 gと少量ですが満足感がとても得られるようかんでした。甘さ控えめで、しっとり硬めの食感です。また、栗の食感がしっかりと感じられようかんの甘さと絶妙にマッチしておいしいです。
宇宙食として認証されるには厳しい条件をクリアしなければなりません。
宇宙空間では冷凍冷蔵保存ができないため、常温で長期間保存できる食品が求められます。さらに、微重力空間での生活では、血液が頭部に集まることで鼻づまりを引き起こすと言われています。食品の味を感じにくくなるため、味がしっかり感じられる工夫が必要となります。微重力空間では液体や微粉末が飛び散ることで機械の故障につながるため食品にまとまりや粘性が求められます。そのほかにも、スープ類は飲みやすいように具を細かく刻んだり、粉末調味料を液体に溶かして使用するなどの工夫が施されています。
宇宙食には、「常温で保管可能」「限られた調理器具で食事ができる」「ゴミがあまり出ない」など地上でも重宝される条件が求められています。このように、宇宙食は決して宇宙空間でしか活躍できない食べ物ではありません。
例えば、宇宙食と災害食には多くの共通点が存在します。
・長期保存が求められる
・限られたスペースに保管しなければならないため、軽量性及びコンパクト性が求められる
・宇宙環境でも災害時でも調理環境が限られるため簡単に食べられる食品が求められる
・衛生面に配慮されている必要がある
・宇宙空間も災害時も水やごみ処理が制限される
このように多くの共通点が存在するため、JAXAにより宇宙日本食認証を取得したものは日本災害認証審査項目の一部が免除され比較的簡易な審査で認証できます6、7)。
昨今は台風、豪雨、地震など予測不能な非常事態がいつ起こるかわからない状況です。このような状況下で私たちは万が一に備えて備蓄する必要があります。また、災害時のような極限状態でこそおいしいものを食べてストレスがかからないようにする必要があります。宇宙食には、災害食に必要な要素が揃っています。おいしさを保ちつつ長期保存ができかつ簡便に調理できる宇宙食の技術に着目して、今後は保存食の開発が求められると考えられます。
参考文献
1) 油井亀美也宇宙飛行士ISS長期滞在ミッションプレスキットNC版 https://astro-mission.jaxa.jp/yui/item/JAXA_yui_crew-11_presskit.pdf
2) 宇宙食とは:宇宙日本食 – 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター – JAXA https://iss.jaxa.jp/spacefood/overview/
3) 宇宙食にはどのようなメニューがあるのですか。 | JAXA 有人宇宙技術部門
https://humans-in-space.jaxa.jp/faq/detail/000522.html
4) 宇宙食の種類:宇宙日本食 – 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター – JAXA https://iss.jaxa.jp/spacefood/overview/category/
5) 宇宙食 | JAXA認定の宇宙食 通販 https://spacegoods.net/SHOP/958885/list.html
6) 宇宙日本食認証食品が「日本災害食」認証申請を行う場合、 審査項目の一部が省略されることになりました ~宇宙日本食の地上生活での活用へ~ | JAXA 有人宇宙技術部門 https://humans-in-space.jaxa.jp/biz-lab/news/detail/001966.html
7) 宇宙食最前線! 宇宙ではどんなものが食べられる?【後編】 | JAMステ 宇宙を知るメディアサイト https://www.jamss-station.jp/engage_with_space/space_food_2/
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