消費者の相反する欲求は、食品開発の重要なヒント①

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いまではすっかりコンビニの定番メニューになったラーメンなどの汁物。電子レンジでそのままチンするだけで出来たてのおいしさを満喫できます。汁をゼラチンで固めることで、汁と麺をいっしょにしても、持ち運びの際にこぼれることもなく、麺が伸びることもありません。ゼラチンは常温では固まり、加熱すると液体になります。しかも味やとろみが少なく、だし本来の味をそこねることもありません。「手間いらずなのに出来たてのおいしさ」という消費者の相反する欲求を見事に商品化し、大ヒットにつながりました。
もう一例紹介しましょう。2010年代に入り急速に広がった「焼きチョコ」。熱に強く夏でも溶けないチョコレート菓子です。さらに外側はサクッと香ばしく、内側はとろっとした濃厚さという相反する2つの食感も両立させています。「夏なのにチョコレートを食べたい」という消費者の相反する欲求を商品化し、夏チョコという新しい市場を開拓しました。
当社が開発した、消費者の相反する欲求を融合させた事例を2週にわたってご紹介いたします。食品開発のご参考にしていただければ幸いです。

パラパラチャーハンなのにおにぎり

日本を代表するファーストフードおにぎり。コンビニやスーパーに無くてはならない定番メニューです。車やデスクでも片手で食べることができ、オンオフさまざまな生活シーンに欠かせません。毎日食べても飽きのこないように、さまざまな新製品が投入され、品揃えも充実してきています。そういったなか若年層に人気のチャーハンをおにぎりとして商品化できないかという開発テーマが持ち上がりました。
チャーハンの決め手は、パラパラとした食感。かたやおにぎりは、形を保つための結着性が命です。相反する物性をどうクリアするのか、チャーハンおにぎり開発プロジェクトが始動しました。課題を解決するために、「チャーハンはなぜパラパラ感があるのか」分析。油が米をコーティングしてでんぷんの結着性を阻害。さらに具材が入ることで空洞ができやすくなり、ボロボロくずれ、パラパラ感が増すことがわかってきました。とくに製造時の熱い状態やレンジ加熱すると、油が流動的になり蒸気の影響もあって、さらに崩れやすくなり、おにぎりにするのが難しくなります。試行錯誤の末、過剰な油の偏りを減らし、まんべんなくごはん粒をコーティングしてパラパラ感を出す素材と、加熱によって保形性がアップする結着素材を組み合わせて、絶妙な黄金比率を割り出しました。最大のネック要因だった熱い製造時やレンジ加熱時での崩れやすさをクリアしました。口のなかに入れるとパラパラほぐれるのに、おにぎりとしての形をしっかり保つ「パラパラチャーハンなのにおにぎり」を完成させることができました。製造ラインでスタッフが扱いやすいように、炊飯時や調味料に加えるように開発しました。

コールスローサラダなのに一晩保管しても離水しない

手軽に一品追加できる総菜サラダは人気メニューですが、調理後すぐに食べないとドレッシングの塩分で水分が出てベチャベチャしたり乾燥したりして、シャキシャキ新鮮なおいしさが台無しになってしまいます。保水力のある原料を使えば離水は防げますが粘度によってぬめりやねとつきが出て不味くなってしまいます。
そこで輸送や陳列の時間を考えて一晩保管しても、離水が少なくフレッシュなおいしさそのままのコールスローサラダづくりが始動。製造ラインのスタッフが扱いやすいように振りかけるだけで使えてダマやママコになりにくい素材を前提に素材探索をスタートさせました。また多糖類は加熱溶解して使用することが一般的ですが、サラダですので加熱しなくても使えることも条件に加えました。増粘多糖類は保水力が上がりますが、ねとつき食感がサラダに合いません。さまざまな素材を検討した結果、まとまり感があって保水力があるのにねとつきが少ない素材にたどりつきました。とくに冷蔵庫のチルド帯では保水力が強いが口の中の温度ではほどよくほぐれる、「コールスローサラダなのに一晩保管しても離水しない」新鮮なおいしさを実現しました。

濃厚しっとりブラウニーなのに低脂肪

高まる健康ニーズ、ダイエット志向でお菓子を心ゆくまで楽しめない、むしろお菓子を食べることに罪悪感を覚える人が増えてきました。かといって脱脂原料を使うと濃厚感が無くなり物足りなくなります。そこで低脂肪なのに濃厚リッチなお菓子を食べたいという、相反する欲求を満たすことが技術課題として浮上しました。
濃厚感とは何か、なぜ脂肪が少なくなると濃厚感が減るのか物足りなく感じるのか検証。脂肪分がもたらす風味コク、しっとりクリーミーな食感が重要であることがわかってきました。とくに代替が難しいと言われている食感にフォーカスして検討を開始。多糖類は長い鎖を持ち水溶性が高く、水を吸ってとろみが出るため脂肪のクリーミーな食感を演出できます。しかし量や素材の選定を間違えるとぬとっとした嫌な食感になってしまう難しい素材です。多糖類のベストな組み合わせを開発、「濃厚しっとりブラウニーなのに低脂肪」を実現しました。
次週に続く

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