多糖類の溶解性~溶ける・溶けないの条件~

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多糖類とはグルコース等の単糖がいくつも連なった物質の総称です。デンプン、寒天、ペクチン、キサンタンガム、カラギナン等が多糖類に分類されます。ゲル化や増粘といった特徴を活かすには正しく水和させることが大切です。今回は多糖類の「溶解性」をテーマにお話しします。

多糖類の溶解とは

多糖類には冷水で溶解するもの、常温で溶解するもの、あるいは加熱しなければ溶けないもの等様々です。では、なぜこのように水への溶解性が異なってしまうのでしょうか。
そもそも「溶解」とは溶解する分子(多糖類)が溶媒中の水分子と結びつき水和することを示しています。多糖類には基本骨格である単糖由来のヒドロキシ基(OH基)が多く存在するので、水分子に対して親和性があります。図1に単糖の例としてα-D-グルコースの構造を示しました。グルコースは5つのヒドロキシ基を持っています。

一方で上記ヒドロキシ基や糖の環状構造中の酸素は分子内や分子間で水素結合を形成します。多糖類の種類によってはイオン結合や疎水結合等を形成することもあります。これらの結合が強く働いていると水和が容易ではなくなります。つまり、多糖類分子が水分子と結びつきやすいのか、あるいは多糖類の分子内/分子間の結合が強いのかが溶解性に繋がります。

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溶解性の要因

多糖類そのものに由来する要因としては、①側鎖(分岐)、②電荷をもつ官能基、③疎水基、④カウンターイオン(電荷をもつ官能基へ結合するイオン)、⑤分子量、⑥濃度、⑦粒度等があります。一方、多糖類以外に由来する要因としては、⑧pH、⑨イオン、⑩糖度、⑪温度等があります。表1に溶解性の要因と効果を記載しました。

表1.溶解性の要因と効果

要因 効果
側鎖(分岐) 側鎖(分岐)があると分子内/間に隙間ができ溶解しやすい。
高度に分岐しすぎると隙間が小さくなる。
電荷をもつ官能基 硫酸基、カルボキシル基、アミノ基等は等電点以外のpHにおいて、
電荷の反発によって分子内/間に隙間ができる。
疎水基 メチル基等の疎水基は高温時に疎水基間で
強く結合するため、低温で溶解しやすい。
カウンターイオン ゲル化に大きく寄与するイオンは分子を
結びつける方向へ力が働くため溶解性が下がる。
ナトリウムが溶解性を向上させることが多い。
分子量 高分子に比べて低分子の方が溶解性しやすい。
濃度 多糖類の濃度は低いほど溶解しやすい。
粒度 粉末の粒度が細かいほど溶解しやすい。
pH 等電点付近のpHは溶解し難い。
イオン 溶媒中のイオン濃度が高いと溶解し難い場合がある。
糖度 溶媒中の糖度が高いと溶解し難い。
温度 溶媒の温度が高いほど溶解しやすい。
疎水基が多い場合は低温ほど溶解しやすい。

表1に示した要因を考慮することで溶解性を改善できる可能性があります。

官能基による溶解性の変化~セルロースの例~

官能基の修飾という形で溶解性が改善されている例としてセルロースを挙げます。セルロースはグルコースがβ-1, 4結合している多糖類で、グルコースが交互に反対の向きで結合するためシート状の高次構造を形成します(図2)。この時、隣接するグルコースのヒドロキシ基間あるいはヒドロキシ基と環状構造中の酸素原子との間で水素結合を形成することによって親水性は弱くなり疎水性が強くなります。さらにシート構造同士の疎水的な結合によりセルロース分子は凝集し強固な繊維質となるため、溶解性が低くなっています。

一方でセルロースへ官能基を導入したカルボキシメチルセルロースやメチルセルロースはセルロースに比べて溶解性が改善されています。それぞれの構造を図3に示しました。(メチルセルロースの詳細はメチルセルロース・HPMCとは~基礎から徹底解説をご覧ください。)


図3.セルロース(上)、カルボキシメチルセルロース(左)、メチルセルロース(右)の構造

カルボキシメチルセルロースやメチルセルロースはヒドロキシ基よりも大きな官能基(赤枠)が導入されることで立体障害が発生し凝集が弱くなります。また、カルボキシメチルセルロースはカルボキシル基に由来する電荷の反発によって、分子間に隙間が生じやすくなります。

「溶解性」の要因は様々なので今回ご紹介したものがすべてではありません。条件次第で溶解性は大きく変わりますので、用途にあった条件の選定が大事になります。

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