酸性乳飲料・
ドリンクヨーグルト等の
活用方法
乳は脂肪分や乳タンパク等を含む固形分と水分から成り立っているため、乳製品は分離が起こりやすく、味や食感等が低下しやすい性質をもちます。これを防止し「安定化」させるのが、カラギナンなどの増粘多糖類です。また乳製品の個性を創り出すための「食感づくり」にも寄与します。今回は乳製品の各アプリケーションへの増粘多糖類の利用における役割等を解説します。
目次
乳は脂肪分や乳タンパク等を含む固形分と水分から成り立っているため、常温に放置しておくと①乳脂肪分、②液相、③白い沈殿物の3つの相に分離してしまいます(図1)。
①乳脂肪分 :液相よりも比重が小さいため、上昇する力(浮力)を受けます
②液相 :水と水溶性成分(一部のビタミン等)からなります
③白い沈殿物 :カゼイン(乳タンパク)とその複合成分からなり、液相よりも比重が重いため、下降する力を受けます。
乳の分離は製品の品質を下げてしまうため、それを防止し「安定化」させるために以下の方法があります。
①脂肪分の微細化:粒子の大きさをできる限り小さくすることで、浮力を小さくします(図2)
②乳化:乳化剤等を添加することで乳化を促進し、水と脂肪の不調和を除きます(図3)
③成分の移動防止(図4)
1) 増粘化による移動防止:増粘剤を添加することで液相の粘度を高め、粒子を移動させる力(浮力や下降力)を抵抗力で相殺します
2) ゲル化による移動防止:ゲル化剤を添加することで立体的な網目構造を作り出し、粒子を網目の中に閉じ込めます
今回は乳製品の安定化の方法の中でも、③の増粘多糖類による安定化を中心に解説します。
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乳製品デザートの安定剤はさまざまな多糖類が利用されますが、中でもカラギナンが多く使用されます。カラギナンは硫酸基をもつガラクトースで構成されており、結合構造と硫酸基の割合によってκ(カッパ)、ι(イオタ)、ι(ラムダ)の3種に分かれます。基本特性は表1を参照ください。
さらに詳しいカラギナンの基礎については、以下コラムをご参照ください。
〉カラギナンとは~基礎から徹底解説
カラギナンが乳製品デザートによく使用されるのには以下の理由があります。
●少量の使用で効果を発揮
カラギナン(特にκタイプ)は乳に含まれるカゼインとの反応性が高いという特徴をもつため、少量の添加で乳の安定化作用をもたらします。
●あらゆる食感を作り出せる
前述のとおり、カラギナンにはκ、ι、λの3タイプがあります。また構造上の理由から他の安定剤(デンプン、ローカストビーンガム等)と相互作用を引き起こします。これらの組み合わせにより、固くてもろいものからもっちり弾力感のあるものまで、あらゆる食感を作り出すことができます。
●加工および熱処理が簡単
カラギナンは加熱状態で粘度が低いため、製造における作業性が上がります。
●ゲル化温度以上のときの機械的作用では最終製品の物性に影響が出ない
例えば、デンプンは激しい機械的作用によって粒子が破壊されてしまい、最終製品の物性が低下することがあります。しかしカラギナンは、ゲル化温度以上のときの機械的作用であれば、最終製品の物性に影響が出ることはありません。
まずクリームとは脂肪分を多く含んだ牛乳の一種であり、起泡する成分を多く含むため菓子作り等によく利用されます。クリームには以下のような種類があり、それぞれの特徴に合わせて増粘多糖類を使用しています。
●生クリーム
生クリームは濃厚感を出すためにエージング処理(一定の時間タンクに貯蔵すること)を行いますが、その場合、保存期間が短くなってしまいます。そこでエージング処理の代わりに増粘多糖類を添加することで粘度付与による濃厚感を出し、保存期間を長くすることができます。
●液状ホイップ用クリーム、ホイップクリーム
液状ホイップ用クリームは、長期保存を目的に開発されたクリームです。脂肪分の含有量が低いものは泡立ちが悪くなってしまうため、起泡剤として増粘多糖類が使用されます。
またホイップクリームの状態ではケーキの飾りつけ等に使用されることが多いため、高い保形性が求められます。この保形性向上にも、増粘多糖類が使用されます。
●ライトクリーム
ライトクリームは他のクリームに比べて脂肪分量が少なく、コーヒーや紅茶に使用されます。コーヒー等と混合された後、分離を防止するための安定化の目的で増粘多糖類が使用されます。
例として、増粘多糖類とデンプンを使用したカスタードプリン・カスタードクリームのアプリケーション作成において、よくある失敗例と原因・対策についてまとめたものを表2に示します。ぜひ食品開発にお役立てください。
プリンやクリームデザートは子供から大人まで多くの人々に食される典型的な乳製品デザートです。家庭でも手軽に作れるよう様々な粉末デザートミックスがあり、タイプによって使用する増粘多糖類を選定する必要があります。
ゲル化剤はカラギナンが適しています。理由として、カラギナンは牛乳との反応性がよく、またタイプや他の多糖類との組み合わせによってあらゆる食感のゲルを作ることができるためです。
<食感による増粘多糖類の選定>
●引き締まった固めのプリンにしたい場合
使用量も少量で済むため強いゲル化反応性を示すκタイプのカラギナンを選択しがちですが、単体だと組織が脆く離水の多いプリンになってしまいます。その際は弾力性を富むゲルを生成する多糖類(ローカストビーンガム、ペクチンやデンプン等)と組み合わせると、組織の脆さや離水を軽減することができます。
●弾力感のある柔らかなプリンにしたい場合
弱いゲル化反応性を示すιタイプのカラギナンがおすすめです。組織が壊れにくいため、型抜きがしやすいプリンが作れます。
<使用方法による増粘多糖類の選定>
●加熱方式
冷たい牛乳に粉末を添加し、かき混ぜながら加熱して粉末を分散・溶解させた後、型に注ぎ冷却して作る方式です。増粘多糖類の選定には、特に溶解温度に着目します。例として、一般的にκタイプのカラギナンは70℃程度で溶解しますが、寒天等は100℃で数分間の攪拌が必要になるため、製造方法を合わせる必要があります。
●インスタント方式
あらかじめ沸騰した牛乳に直接粉末を添加して作る方式です。加熱方式に比べ、粉末は素早く分散・溶解できる必要があります。そのため使用する多糖類は、粒子が細かく分散性の高いもの、またデンプンはα化している溶解性の高いものが適しています。
●非加熱方式
冷たい牛乳に粉末を添加し、加熱なしで溶解させて作る方式です。そのため使用する多糖類は冷水可溶タイプを選ぶ必要があります。
多糖類は主に増粘作用のあるカラギナン、キサンタンガム、グァーガム等を使用します。また、ゲル化剤を使用する場合はデンプンと併用することが多いです。
<使用方法による増粘多糖類の選定>
クリームデザート類も上記のプリン同様、加熱方式・インスタント方式・非加熱方式があるため、そちらをご参考ください。
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酸性乳製品は、乳酸菌等を含んだ健康に特化したもの、果実フレーバーが使われた香りのよいものや製品の賞味期限を伸ばしたロングライフ製品等があります。
乳に含まれるカゼイン(乳タンパク)は、等電点以下の酸性下になるとカゼイン同士の電子的反発が失われて凝集が起こります(図5)。酸性乳製品ではこのカゼイン凝集を防ぐため、安定剤としてHMペクチンや大豆多糖類がよく使用されます。例えばHMペクチンはカゼイン表面に吸着してカゼイン同士の反発を生じさせ、凝集を防いでいます(図6)。
前述したとおり中性の乳製品デザートでは主にカラギナンが使用されますが、酸性下ではカラギナンはカゼインと凝集反応が生じてしまうため使用が難しいです。酸性の乳製品デザートの場合は、ゲル化剤だけでなくペクチンなどでカゼインを安定化させる必要があります。
また、酸性乳製品でもボディ感を出すためにデンプンを併用することが多いですが、その際は酸性下で安定しているタイプのデンプンを使用する必要があります。
アイスクリームは、糖などの多くの物質を含む水溶液に乳または植物性脂肪を乳化させ、冷凍するデザートです。
氷結晶はアイスクリームのミックス液を冷凍する際や、温度変化により溶けだしたアイスクリームを再凍結する際に生成されます。氷結晶があるとなめらかな口どけ食感が失われ、ジャリジャリとした食感になってしまいます。この氷結晶の生成を防ぐのが、安定剤(多糖類)の役割です。
安定剤を添加すると、氷結晶の原因となる自由水(他分子と結びついていない自由に動き回れる水)が減少し結合水となるため、氷結晶生成を防止します(図7)。
アイスクリームに使用する多糖類は、増粘剤(ローカストビーンガム、グァーガム、CMC等)とゲル化剤(カラギナン、アルギン酸、LMペクチン)を組み合わせることが必要です。増粘剤を単体で使用したり、添加量を増やして粘度を高くしても、安定性はあまり向上しません。過剰な粘度上昇は作業性や食感を悪くさせます。組み合わせるゲル化剤は乳タンパクとの反応性の高いカラギナンがよく使用され、少量で安定性を向上させることができます。
また、乳化を安定させる乳化剤とも併用させることも必要になります。
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乳製品にはさまざまな商品があり、それぞれの特性に適した多糖類があります。また消費者のニーズは多様化しており、それに伴って求められる食感も多様化しています。ぜひ商品開発にお役立てください。
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