改善対策特集
近年、食品業界において「アップサイクル(英語表記“Upcycled”)」という言葉が使われるようになってきました。食産業におけるアップサイクルとは、本来であれば廃棄されていた食材や食料を活用し、付加価値をつけて新たな商品とすることです。海外ではアップサイクルの認知度を高めるプログラムも始まっており、今回のコラムでは、アメリカとオーストラリアのアップサイクル食品もあわせて紹介します。
(調査日:2021年10月)
【関連情報】
「アップサイクル」とは、不要になったものを廃棄せずに、新しいものに作り替えてより価値の高いモノを生み出すことを言います。これは、不要物を回収して再資源化し、再利用する「リサイクル」や、使用済みのモノを繰り返し使う「リユース」とは異なります。アップサイクルは、本来であれば価値がないとされていたモノに新たな価値を生み出し、廃棄物量を減らすため、環境負荷を低減して循環型社会を実現する手段の一つとしても注目されています。例えばアパレル業界では、売れ残った余剰在庫の衣服を活用して、新しいドレスやジャケット、カバンに作り替える取り組みが行われています。
食品業界でも、これまでは廃棄されていた食材や食べ物を活用して、新たな商品を作り出す取り組みが増えています。ここで活用されるのは、本来であれば食べられるのに捨てられてしまう食品(食品ロス)、食品を製造する段階でいらなくなった食材、不揃いや傷がある規格外品です。
農林水産省によると、日本の食品廃棄物等は年間2,531万トン。そのうち食品ロスは600万トンで、国民一人あたりに換算すると1年で47キロになります(※1)。日本の食品業界でもアップサイクルが広く取り入れられると、食品ロスの削減に繋がります。世界レベルではSDGs(持続可能な開発目標)で食品ロスについて言及されており、目標の一つである「つくる責任つかう責任」の中で、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人あたりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」というターゲットが定められています(※2)。
海外では、2019年にアメリカでアップサイクル食品協会(Upcycled Food Association、本部コロラド州デンバー)が設立されました。同協会は2021年に、アップサイクル食材および製品に対する認証プログラムをスタートさせており、これは世界で初めて第三者認証を受けたプログラムです。このプログラムの柱は、製品に付帯する認証マークによって、小売業者および消費者にアップサイクル製品への認識を促し、食品ロスを防ぐ機会を提供することにあります。筆者が同協会のCEOであるTurner Wyatt氏に伺ったところ、2030年までに年間10億パウンド(約45万トン)分の食品ロスの削減を目標としているとのことです。
Take Two Foodsは、ビールを製造する過程で使用済みとなった大麦(ビール粕)を活用して環境にやさしい植物性ミルクを製造しています。本来であればビール粕は家畜飼料となるか、あるいは廃棄物として破棄されてきましたが、同社はビール粕にはタンパク質や食物繊維が多く残っていることに着目して商品開発を行いました。オリジナル味の場合、1食分(240ml)あたり90kcalで、5gのタンパク質、1gの食物繊維を含みます。原材料は大麦ミルクのほかに、ココナッツクリーム、サトウキビ、高オレイン酸ヒマワリ油、えんどう豆タンパクなどが使用されており、ドリンクとしてそのまま飲むだけでなく、料理やお菓子作りにも使うことができます。同社の当製品はアップルサイクル食品協会の認証を取得済みです。
Pulp Pantryは、コールドプレスジュースを製造する過程で廃棄される野菜の搾りかすを利用して、チップスを製造しています。同社のコンセプトは、栄養価が高くかつサステイナブルな商品を消費者に提供すること。搾りかすと言っても、そのほとんどが食物繊維なので栄養は豊富に含まれています。同社は、コールドプレスジュースを製造・販売する企業とパートナーを組んでおり、製品にはオーガニックのセロリとケールの搾りかすが主な原材料として使われています。その他の原材料にはキャッサバ粉、タピオカ粉、オクラ粉、チアシードが使用され、グルテンフリー、グレイン(穀物)フリーとなっています。
I am Groundedは、コーヒーチェーリー(コーヒーの実)を活用することでスーパーフードのエナジーバーを製造しています。普段私たちが使うコーヒー豆はコーヒーチェリーの種子で、同社によると、種子を取り除いたコーヒーチェリーの殻は91%が廃棄されており、その過程で大量の温室効果ガスが排出されます。廃棄されるコーヒーチェリーは年間で2千万トンに及び、1660万トンの二酸化炭素の排出に値するとのこと。同社は、コーヒーチェリーを商品化することで、環境負荷の低減に取り組み、そして経済的・社会的にもコーヒー農家に良い影響をもたらしています。2019年3月以来、同社は6万トンのコロンビア産コーヒーチェリーをアップサイクルしており、これは5.04トンの二酸化炭素削減に値するとのことです。エナジーバー1本には7gのコーヒーチェリーが使われ、その他の主な原材料にはオーガニックデーツ、オーガニックカシューナッツ、無農薬アーモンドが使われています。
このように食品業界では環境にやさしい商品づくりが加速しており、今後もユニークなアップサイクル食品が多く登場することが予想されます。そして消費者がアップサイクル食品について知り、こういった商品を積極的に購入することは、普段の暮らしを通して簡単に環境負荷の低減に貢献できる方法の一つになるでしょう。
(参考資料)
※1
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_4.html
※2
https://sdgs-support.or.jp/journal/goal_12/
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